忍だった少女が夢見るは。

愛乃桜

序幕 その物語の始まり

「……あれが、上田城……」

 私は森の中にある高木こうぼくから、遠くに見える城を見てそう呟いた。

 隣に立つ兄──才蔵さいぞうと共に上田城主である真田さなだ昌幸まさゆき様の元へ行くように、と里長さとおさから言われたのは先日の事。任務明けそのまま里長に呼ばれ、その話を受けた時はいつもの暗殺任務なのかと思ってた。実際はただ上田に行け、そう言われただけで拍子抜けした。

「明日には昌幸様と顔を合わせるんだから、少しでも早く上田に入る。紗加さやかほうけてたら置いて行くよ」

「わ、待って才蔵。置いて行かれると困る!」

「じゃあしっかり付いて来な」

「分かってる」

 先に枝をった兄を追いけるように、私も枝を蹴った。

 私達、兄妹きょうだいが上田に呼ばれ何をにんぜられるか、この地での出会いが運命だなんて、この時の私はまだ知らなかった。

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