学園一の美少女が幼馴染ですが最近様子がおかしいです
水嶋陸
前編
「涼太!」
凛とした声が教室に響いて周囲の視線が集まった。勢いよく扉を開けたのは学園一の美少女、藤宮柚季。彼女は一身に注目を浴びながら堂々と俺の元へ歩み寄ると、目の前にノートを突き出した。
「これ、昨日家に忘れて帰ったでしょ。ほんと鈍くさいんだから」
片眉を吊り上げ、ため息を零す柚季はテレビでもちょっと見かけないくらい整った顔立ちをしている。長い睫毛に縁どられたアーモンド型の瞳は髪と同じ栗色で、色素の薄い肌は夏でも抜けるように白い。華奢な手に握られたノートの端を掴み、俺は苦笑した。
「悪い、ちゃんと片付けたつもりだったんだけど。お前のクラスから遠いのに、わざわざ届けてくれてありがとな」
「午後の授業で使うって聞いたから一応ね。お礼はプリンでいいわ。うちの近くにケーキ屋さんがあるでしょ? あそこの塩キャラメル味がいい」
「はいはい仰せのままに」
「一日限定100個だから朝イチでゲットしてよ。じゃ」
ちゃっかりリクエストを添えるあたりが柚季らしい。彼女が教室を出て行く姿を見届けた後、俺はノートを開いた。次の授業が始まるまでまだ時間がある。柚季に教わった部分を復習しようとした次の瞬間、
「真田ぁぁぁ~~~~!!!!」
「ふぐっ!?」
不意打ちで背後から首を羽交い絞めされ、息が止まる。普通ならギブアップするところだが、護身術を習得している俺の体は反射的に動き、カウンターを繰り出した。思わぬ反撃を喰らった犯人(友人)は「ぐわっ!?」と間抜けな声を漏らし飛び退く。「いきなり何するんだよ!?」と俺が振り向くと、反省するどころか恨めしげな面持ちで舌打ちする。
「うるせー黙れっ! お前ばっか藤宮さんと仲良くしてずるいんだよっ。幼馴染だからって人目も憚らずイチャイチャしやがって!」
「はぁ!? してないし! 今のやり取りのどこに甘さがあるんだよ。ノートを担保にパシられただけだろ? だいたい柚季は――」
「さらっと名前で呼ぶなこのムッツリ眼鏡!!」
ぎゃあぎゃあ喚く友人にうんざりしつつ、弁明に疲れた俺はガクリと脱力した。
柚季と俺は特別な関係じゃない。ただ、母親同士が親友で家が近所ということもあり、家族ぐるみで付き合いがある。お互いの家は出入りフリーパスで、一緒に勉強して(正しくは俺が柚季に教えてもらって)そのまま夕飯を共にする機会も多い。
しかしそういえば、最近柚季はぴたりと俺の部屋に来なくなった。家に来てリビングで寛ぐことはあるけれど、部屋に誘っても応じない。少し前までは夜まで平気で居座って、ゲームに夢中な俺の隣で本を読んだりしていたのに何かがおかしい。
眉間に皺を寄せて顎に手を当てると、またもや濡れ衣を着せられた。
「今なんかエロいこと思い出してたろ!?」
「んなわけねぇだろ! 柚季は家族みたいなモンだぞ!? 下着で迫られたって平常心保てる自信あるぞ俺は!」
「見たのか藤宮さんの下着姿を!?」
「例え話だ想像すんなバカ!!」
明らかにいかがわしい目つきの友人にうっかり右ストレートをかました結果、クリーンヒットさせた俺は担任にこってり絞られ反省文を書かされた。放課後、生徒指導室を出た俺は凝りまくった肩をパキポキ鳴らし、うんと背伸びして下駄箱へ向かった。
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