……ざーという雨の音が聞こえる。


 司は透明なビニールの傘をさして、自分の自転車を押しながら、そんな雨の中を歩いて、青空橋のところまで戻ってきた。


 そのころには、もうずいぶんと雨は弱くなっていた。(傘をささなくてもいいくらいの小雨になっていた)


 司は青空橋を渡る途中で、その足を止めた。

 司は片手を出して雨の強さを確かめてから、そっと、ビニールの傘をたたんだ。


 それから、まっすぐに家に帰る前に、司はなんとなく青空橋の手摺りのところから、さっき唯と一緒にそうしていたように、青空橋の下に流れる小川の風景に目を向けた。

 小川の風景は先ほどとほとんど変わらなかった。(違うのは、小さな雨の降る波紋がぽつぽつと水面にあるくらいだった)

 静かに流れる小川の水面を照らす街灯の光の中には、一匹の魚の姿があった。


 その魚の姿ををじっと少しの間、眺めてから、司は小川の上流のほうにその視線を動かした。

 すると、雨が降ったせいなのか、蛍の光はなくなっていた。

 ……そこは確かに、つい少し前まで、強い雨が降り出す前まで、綺麗な薄緑色に輝くたくさんの蛍の光があった場所だった。

 でも、今は、そこにはただの暗い夏の夜だけがあった。


 司のいる青空橋の上に少しの雨を伴いながら、気持ちの良い夏の風が吹いた。


 司は小雨の降る、気持ちのいい風の中で、そんな蛍のいなくなった真っ暗な夏の夜の風景をぼんやりとしばらくの間、一人で青空橋の上から眺めてから、また自転車を押して、ゆっくりと歩いて自分の家に帰った。


 その日の夜、司は唯の夢を見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る