マーダーライフ

電咲響子

第1話

01-01 サイコパス診断

「サイコパス診断?」

「うん」


 かちかち。かちかち。


「なんだよ、それ」

「やっぱり知らないんだ」


 ぎしぎし。ぎしぎし。


「馬鹿にするな。暑い日と、寒い日と、あと暑い日に三回は観た」

「キミはなんでも知ってるけど、知らないことが多すぎる」


 かちかち。かちかち。


「で、なんだよ、それ」

「少し長いけど読んでみなよ」


 ぎしぎし。ぎしぎし。


「映画じゃないのか。んんー? っと……『

このサイトでは、あなたのサイコパス度を診断できます。設問に対しどう答えるかによって、あなたがどれぐらいサイコパスなのかをチェックします。設問は全部で50問。回答後に出てくる模範解答に近い場合はサイコパス値を加え、遠い場合はサイコパス値を減らしてください。値の増減はあなたご自身の判断にお任せします。それではどうぞ

』」

「それではどうぞ」


 かちかち。かちかち。


「あのな、ニト。あまりふざけてると」

「"殺す"は禁句」

「あまりふざけてると殴るぞ。50問? そんなに暇なのか? 今の俺は」

「まさか。ひとつだけでいいよ。ほら、これ」


 ぎしぎし。ぎしぎし。


 携帯型端末の無機質な操作音と、骨肉を刻む有機質な音が四方の壁に反響する。無数のひび割れが染み付いたコンクリートの壁に反響する。


「んんー? っと……『

Q.二人組みの殺し屋が一人の女を殺しました。その後、死体を処分するためバラバラに切断しました。

殺し屋A「配分どうする?」

殺し屋B「俺が頭部と腕で……」

殺し屋A「じゃあ俺は胴体と脚を担当するわ」

殺し屋B「えっ? 本当にそれでいいのか?」

殺し屋A「もちろんさ」

それぞれ分担して死体を処分することが決定したわけですが、さてここで問題。

なぜ最も面倒くさい"胴体"をAは選択したのでしょうか?

』……なんだこれ」

「いいから早く答えなよ」

「ああ、そうだな…… 答えはこいつが馬鹿だから、だ」

「キミらしい答えだね。おっと」


 からん。からん。


「おい、模範解答ってのを見せろよ」

「がっかりしないでね。ほら、これ」

「んんー? っと……『

・一般人の答え

胴体部分に利用価値があったから。

臓器売買に使う、悪食家や変態に売りつける、など。

・サイコパスの答え

あえて面倒くさい部分を引き受けることで相棒に恩を売った。

』……なんだこれ」

「がっかりした?」


 からん。からん。


 殺風景な部屋に役目を終えた刃の音が響き渡る。


「まるで俺が馬鹿みたいじゃないか」

「つまりキミはどちら側でもないってこと」

「オンリーワンってやつか? そもそもサイコパスってなんなんだ」

「この設問から得られる教訓は?」

「仕事において役割分担は重要だ」

「正解」


 天井から無雑作に吊るされた裸電球。その光は、一面に広がる赤と二つの黒とのコントラストを見事に表現していた。

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