18 抱きしめあう。
抱きしめあう。
ぎゅっと、君を抱きしめる。
しっかりとあなたのことを抱きしめる。
この場所が、僕たちの、私たちの本当の家(居場所)なんだと思う。
森を抜けると、そこには美しい風景が、薄緑色の草原が永遠と地平線の果てまで、広がっていた。
……それは、本当に美しい風景だった。
思わず、その光景に、叶の目は釘付けになった。
世界は光り輝いていた。
……世界は、叶が思っている以上に、本当に綺麗だった。……美しかった。
そんな風景を見て、叶は本当に感動した。(なんだか思わず、少しだけ泣きそうになってしまったくらいだった)
心臓の鼓動が、どくどくと激しくなった。
「すごく綺麗なところでしょ?」祈が言う。
「……うん。本当に綺麗だ」叶は言う。
世界には気持ちのいい風が吹いている。
「気持ちいい」
その緑色の風の中で、自分の美しい黒髪をその風になびかせながら、鈴木祈はそう言って、村田叶の横で、にっこりと笑った。
「じゃあ、行こうか? ほら、あそこにさ、小さく小屋が見えるでしょ? あれが私の暮らしている家なんだ」と遠くのほうを指差して祈は言った。
祈の指差している方向には、小さく建物の影が見える。
あれが祈の家なのだ。
「わかった。行こう」叶は言う。
「うん。そうしよう」
おー、と手をあげて、嬉しそうな顔で祈は言う。
草原の中にも、森の中にあった小さな土色の道はそのまま続いていた。
二人は祈の住んでいる小屋のある場所まで、夏の太陽の光に照らされて輝いている薄緑色の草原の中を、その小さな土色の道の上を歩いて移動をする。
薄緑色の草原の中にはところどころに(森の中に咲いていた白い花とは違う種類の)青色の花が咲いていた。名前も知らない花。でも、その花は、とても綺麗な色をした花だった。
青色の花の近くには、白い蝶が飛んでいた。
美しい蝶だ。
「春になるとさ、この辺りは全部が花畑になるんだよ。大地がいろんな色をした花でいっぱいになるの。本当にすっごく綺麗なんだ」
草原の風景を見ながら祈は言う。
「その風景は見てみたいな」叶は言う。
「見れるよ。叶くんが来年の春まで、この場所にいたらね」にっこりと笑って、祈は言う。
「それもいいかもしれない」
冗談を言うようにして、小さく笑って、叶は言った。
二人は手をつないだまま、薄緑色の草原の中にある土色の道の上を歩き続ける。遠くに見える、祈の住んでいる小屋に向かって。
焦らずに。
ゆっくりと。
お互いの歩調を合わせながら。
……満たされた気持ちのままで。
……幸せな気持ちのままで。
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