第3話 ゴミ屋敷

 文章だけを書いて生活していきたい――そんな風に望んでも、実際にそれを実現出来る人間は本当に少ない。

 プロのライトノベル作家であっても、作品がアニメ化しているような方であっても、他にお仕事を持たれている方は多いのだ。

 なので、自分のように編集部から戦力外通告を受けるような者の場合、どうしたって文章を書いているだけでは生活出来ないのである。

 そんな自分が、今までに行った『文章を書く』以外の仕事で印象に残っているものの中に、『ゴミ屋敷の片付け』というものがあるのだ。

 ……守秘義務があるので詳細な内容は書けないのだが、行ったのは数回。ゴミ『屋敷』と言っても、本当にお屋敷規模の家を片付けたわけではない。ワンルームのアパートとか、その類いだ。

 そのような経験の中で、ふと気になったことがあったのである。

 問題の部屋の主たちは……詳しいプロフィールなど教えてもらえるわけもないが、『成人』した『男性』たちであった。……それくらいは、出てくるゴミから判別が付く。

 そして、実に様々なゴミが存在したわけだが……自分の感覚として、あってもおかしくないのに意外に存在していないゴミがあったのだ。

 ――『酒類』のゴミである。

 もちろん、全く無いというわけではなかったが、他のゴミと比較して明らかに量が少なかったのだ。

 その事実に、自分は一言では言い表せない感慨を覚えたものである。

 自分自身は一切酒が飲めない。なので、お酒を嗜む人たちの感覚に疎い部分があるが……酒という飲み物は、それ自体が『娯楽』となるものだと解釈している。

 そういった娯楽を自宅ではあまり楽しまない……そのような印象を受けて、自分の胸中にはこんな疑問が浮かび上がった。

 ……娯楽を行う場所は、その人物にとって居心地が良い場所であるというのが大前提だと思う。居心地の悪い場所で娯楽を楽しもうとしても、絶対に心から楽しめないのは明白なわけなのだから。

 飲酒という娯楽を自宅ではあまり行わなかった彼らは、自宅を『居心地の良い場所』とは認識していなかったのではないかと……そんな風に思ったのである。

 問題は、それが自宅がゴミ屋敷になった後からだったのか、からだったのか……?

 もしも後者だった場合、自宅をゴミ屋敷に変貌させた彼らの行為は……何となく、自分にとって居心地のよくない場所への『攻撃』だったのではないかと、感じたのである。

 ――まあ、あくまでも自分の思い込みが多分に入った解釈だ。

 実際のところは、部屋の主たちも酒類のゴミだけは律義に片付けていたのかもしれないし、居酒屋やBarなどのお店で飲むことの方が大好きなだけだったのかもしれない。

 そもそも、自分はそこまで多くこの仕事を体験したわけでもない――

 話半分に聞いて頂けたのなら、幸いである。

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