行列待ち
へろ。
行列待ち
「もうムリだよ、帰ろう」
「まだ並んでから30分も経ってないじゃん」
「いや、もうムリだよ。ヤロー二人が二時間半もさ、たかだか2~3分で終わるジェットコースターに並ぶこと事態がムリなんだよ」
「でもこれ、ここで一番人気のアトラクションなんだぞ。せっかく来たのに乗らないのはもったいなくないか?」
「もったいないってなんだよ。この時間がもったいねーわ」
「でもそんな冷めた事言ってたらさ、ここ来た意味なくなっちゃうだろ」
「大体にしてさ、なんでここ酒売ってねーの?ありえないんだけど、夢の中に没入できないんだけど」
「しらふでも夢の中に入れるようにできてんだよ、普通の人は」
「普通ってなんだよ、普通って何なんだろうなッ。どう見ても着ぐるみなアレにキャッキャッ言いながら群がり写真撮りまくるのが普通か?
ゴミ拾いが地面に水で書いた落書きに一喜一憂すんのが普通なことなのか?」
「いやだからな、ここは現実と乖離した場所って考えて、大人も子供も楽しく騒ぐ場なんだよ」
「……金は一丁前の値段すんのにか?」
「……対価だよ。つーかもういいやめろ。お前もう喋るな」
「いいのか?本当にいいのか?この後の二時間ちょっと、沈黙がお前を襲うことになるが、本当にいいんだな?」
「いいよ別に。ネットフリックスでなんか見てるから」
「家でやれッ。現実から目を背けるなッ。つーか場を弁えろックソがッ」
「夢の園に来てまで異常な程に酒に執着するお前にそっくりそのまま言葉返すわッ」
「何でだよッ」
「なんでもクソもねーわッ。お前が一回来てみたいっつーから来たんだろうがッ。朝早くにお前の家まで迎え行ってだ、俺が車出してんだよッバカッ。労え俺をッ敬え俺をッ!楽しくなくても楽しめッバカッ」
「……おちっこ。」
「あ?」
「おちっこちたくなったった」
「……行かせないからな」
「なんでだよッ」
「お前帰って来ねーだろうがッどうせッ」
「……漏らすぞ?」
「漏らせよ」
「俺たちの周りの人間が一気に夢から覚めることになるぞ?」
「知ったことか。困るのは、お前だけだ」
「……頼むよ、シュウちゃん。ほんと漏れちゃうんだって。帰って来るから!走れメロスばりに、ちゃんと帰ってくるから」
「……分かった、行けよ」
「行ってきます!」
それから一時間半、山下は帰って来なかった。
「お待たせ!シュウちゃん!」
「殺すぞ、お前。つーか何だよ、それはッ」
「キャラメルポップコーンとチェロスと骨付き肉」
「楽しんでんなッ。なんだお前ッ、俺に並ばせるだけ並ばせて、一人でなに満喫してくれてんだよッ」
「そんな怒るなって!お前の分もちゃんと買ってきてるから!」
「そういう事じゃねーんだよッ」
「役割分担って考えれば、そんなキレることじゃなくない?」
「それ買っただけでこんな遅れるわけねーんだよッ何してたんだよッこの一時間半ッ」
「パレード見てた。あと、お土産買いすぎちゃったから、宅配頼んだりしてた」
「やっぱり楽しんでたんじゃねーかよッ。クソだッお前はクソだッ」
「はぁ?こんなに並ぶアトラクションなのに、ファストパス取ってないお前も悪くない?」
「この一時間半でやたら詳しくなってんなッお前ッ。もういいッ俺は帰るッ」
「でももうすぐ順番来るからさ、乗ろうよ。つーか、俺は乗る。お前の頑張りを無駄にしたくないから!」
「殺すぞ、お前マジで」
「乗らないのか?」
「乗るよッ」
それからすぐに順番は回ってきた。
従業員に飲食の持ち込みは出来ないと、没収された。
「……どうだった、山下?」
「……。」
「なんでお前……下半身だけ濡れ……」
「……。」
「え? おまえ、もら――」
「感動した、帰ろう」
「ハハッ。山下さん!泣いてらぁ」
その後、俺と山下は土産にて、とても愉快な柄のズボンを購入、濡れたズボンと履き替える。
夢の園に感動を置きざりに、ついでに土産屋で買ったチョコレートの缶缶持って、地元のガールズバーへと馳せ参じたのであった。
行列待ち へろ。 @herookaherosuke
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