おじさんと少女

琴子

7日目

「お帰りなさい、おじさん」


「…やはり、まだいたのか」


「あはは、残念?」


「まぁ…。今日は何をしていたんだ?」


「何も。そろそろ飽きてきたからテレビが見たいなぁ」


「飽きるって…」


「だってこの部屋、何にもないじゃない。つまんない」


「つまらないなら、もう止めればいいだろ」


「そんなこと、できると思う?」


「さぁ…もう一週間たつからな。驚きはしない」


「ふふふ、おじさんも飽きちゃった?」


「飽きた、というか……。あー、、弁当買ってきたぞ、食うか?」


「またコンビニ弁当ー!?信じらんない!」


「料理ができるような人間にみえるか?コンビニ弁当も美味しいじゃないか」


「少しは自炊しないと、栄養偏っちゃうよ?」


「俺は食えればかまわない」


「もー、私が教えてあげようか?」


「いらん。調理器具もない。弁当で十分だ」


「むー、そんなのだから、41歳にして彼女なし奥さんなしの童貞なんじゃないのぉ~?」


「……結婚はしてたさ、10年前に離婚したが」


「え、……そうだったんだ」


「昔の話だ。いまは自由気ままにやってるよ。だからこんな仕事もできる」


「今の仕事、好きなの?」


「フー、どうだろうなー……自分でも、何故こんなことをしているのか、わからなくなる」


「ふーん、おじさんでも悩む事あるんだ?」


「当たり前だ」


「……おじさん、無気力な瞳してるよね。絶望でも希望でもない、濁った色。だから悩み事も興味も、ないんだと思ってた」


「はは、確かに。あまり興味はない。生きる希望も、死にたい願望もない。からっぽだ」


「……んー、勿体ないね。身なりを整えて、その微妙に生えてる無精髭を綺麗に剃れば、それなりに見えるのに」


「どうでもいいだろ、そんな事」


「私ね、おじさんの事、好きだよ?」


「は?」


「コンビニ弁当、買ってきてくれるし、なんだかんだ優しいし。」


「は、どういう基準だよ」


「普通に私と接してくれる。本当は、温かい心を持ってるんだよね」


「なんだよ、それ……」


「もう、いいよ。おじさん、疲れたでしょう?自由になって、いいんだよ?」


「どういう意味だ?」


「んー、おじさんには、普通に幸せになって欲しいなーって。」


「今さら……無理だろ」


「もー、まだ41歳でしょ?晩婚化?してきてるんだし、まだいけるってー!まずは理髪店に行くことをオススメするよ」


「なんなんだよ、急に。…それにもう俺は結婚する気はない」


「そうなの?んー、じゃあフーゾクにいくとか!?」


「なっ!!だっ、誰が行くか馬鹿!!」


「あれぇー?でも動揺してない?」


「急にお前が変なことを言うから驚いただけだ!まったく。」


「ふふふ、おじさん面白いねぇ」


「はー、人を無気力だの言っといて今度は面白い、か?俺は疲れてきたよ」


「よし、じゃぁご飯食べようよ?」


「もう疲れたから寝たい」


「ごーはーん!食べるのー!!」


「ハァ……はいはい。畏まりました。」


「ふふふ」

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おじさんと少女 琴子 @kotoko04

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