特等席は海の上

アダツ

特等席は海の上

第1話

 この仕事を先代から託されて、もう一ヶ月くらい経っただろうか。

 この広大な海を渡り、とある孤島に住む女性に手紙を届けるのが、僕の仕事だ。


「じゃあ、今週も頼むよ」


 海岸沿いに家をもっている若い男性から、いつも通りに一通の手紙を受け取る。すらりと背の高く、清潔感のある男性だ。街中へ一歩出ればそれなりに目立てるだろうというのに、何故か彼はこの家を離れようとしない。それほどまでに、この手紙を毎週出すことが大事だというのだろうか。

 それなりに顔を合わせてきたので、ついに理由を聞いてみた。すると次のような答えが返ってきた。


「それはボクが言うべきじゃないな。彼女に訊いてみると良い」


 釈然としないまま、僕はいつも通り海へ出た。

 透きとおった青空に、輝く太陽。小舟を揺らす波は昨日より穏やかで、太陽の光が反射して海面がきらきらと瞬いている。


 本業のついでに受け持っているこの仕事は、受け継ぐ際、先代がずいぶん渋っていたのを覚えている。それに受け継いだと言っても、それほど前から行われているわけではないのだそうだ。ほんの数年前からだとか。面倒くさいなどと思ったことはなく、むしろ気分転換にいい機会だと僕は思っている。だからだろうか、少し変わった仕事の内容に、ちょっとだけでいいから首を突っ込んでみたくなるのは。


 やがて孤島と、一軒の家が見えてきた。本当に小さい島だ。ただ地面と、多少の木があるだけ。そしてその中央に家が建ってあって、とても人が住めるようには思えない。――思えないけど、実際に住んでいるのだから驚きだ。

 今日は男性から食料の配送も頼まれた。この多さは一ヶ月分か。このようにして「彼女」は生きているのだと、僕は納得した。

 小舟を小さな船着場に固定して、大きな食料袋を抱えて僕は家のドアをノックした。するといつも通り数秒で、なかから女性が出てきた。


「いつもご苦労様です。わあ、そういえばあれから一ヶ月経ちますね。重かったでしょう」


 言って、彼女は両手を差し出してきた。


「いえ、大丈夫です、中までお持ちしますよ。どの辺に置きましょうか」


「あ、じゃあキッチンまでお願いできますか」


「わかりました」


 靴を脱いでお邪魔する。家に上がったのは、これが初めてだ。

 やんわりと木の匂いがする。小さな家だが、見た感じなかなか頑丈そうだ。それに、リビング、ダイニング、キッチンが繋がっており、中は広く感じられた。

 言われた場所に食料袋を置いて、僕は本命の手紙を彼女へ差し出す。


「ありがとうございます、いつも」


 柔らかい笑顔で受け取る彼女。余計に、なぜ彼女はこんなところで暮らしているのか不思議に感じてしまう。

『彼女に訊いてみると良い』

 男性の言葉が頭を巡った。そしてついに、僕は彼女に言った。

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