訓練と手加減

「それで、昨日何をしたんですか」


 玖羽と紫焔は今俺の両隣にいる。鎌とハンドガンをしっかり握って。


「昨日色々と検査をして、終わったら遊びたいっていうからここに連れてきたのさ」

「それがどうしたらこんなことになるんですか」

「訓練の様子を見た二人がやってみたいというから、私のコレクションの中から好きな物を選ばせて使い方を教えたのさ。身を守るすべは必要だろう?」


 須摩さんのコレクションとは、時代を問わない多種多様な武器コレクションだ。

 最新の物から極端な性能の武器まで。気に入った武器を須摩さんは集めている。


「それはそうですけど。なんか言ってほしかったです」

「燈火くん、昨日渡したのちゃんと読んだかい?」

「読みましたよ?」

「読んだなら、運動能力について書いてあっただろ?使い方を教えたうえで私が感じたことを書いたのがあれなんだよ」

「え、そうだったんですか。じゃあ、えっと問題ないです?」


 うん……書いてあったな確かに。あれってそういうことだったわけか。たしかに他の項目と書き方ちがったもんな。でもさ?


「書いてあっても言ってなかったら意味なくないですか?」

「そうだね。ちょっと忘れてたんだよ。うん」

「まあそういうことなら、いいですけど。今度からちゃんと言ってくださいよ」

「うん、今度からは忘れないさ」


 で、だ。


「玖羽はその鎌を使って訓練するとして、紫焔はどうするかな」


 紫焔の持ってるハンドガンというか銃は、おそらく近代用にカスタムされてるけど古い銃だ。

 マガジンがなく一回打つたびにリロードしないといけないように思える。

 銃の撃ち方だけなら俺が教えてもいいけど、使い方までは教えれないし。

 ここは須摩さんにお願いするしかないか。

 もともとは須摩さんの持ち物なわけだし。


「須摩さん紫焔のほうお願いできますか?」

「いいとも、任せてくれ」


 二つの返事で定諾する須摩さん。絶対楽しんでるんだろうな、教えるのとか子供好きだし。


「じゃあ玖羽、こっちはこっちで訓練するぞ」

「うん!」


 明るく元気な返事だった。子供はこうじゃないとな。

 玖羽は早速鎌を構える。構え方といい立ち姿といい、なかなか様になっている。

 鎌が大きすぎて違和感はあるが。玖羽の使う鎌は特殊な武器だ。

 柄を使えば棒術だって使えるし、遠心力によって振るわれた鎌は大抵のものは切り裂いてしまう。

 強いが癖の強い武器に変わりはなく、玖羽が使いこなせるのか正直なところわからない。

 そもそも、鎌と身長が釣り合ってない。鎌はたぶん170㎝はありそうだ。

 それでもよろけることなく扱えるのは、鉱石化によってもたらされる身体能力の向上のおかげだろう。


 基本的に訓練には、刃のない武器かプラスチック製の重量の再現された武器を使うんだが。

 鎌の訓練用武器なんてあるはずもなく、保護カバーを鎌の刃に付けることにした。

 使い慣れた武器がいいってやつもいるんもんだから、こういうものは用意されてる。

 俺は用意されてる訓練用の長剣を取ってくる。


「よしじゃあ打ち込んで来い、玖羽」

「うん!」


 玖羽が踏み込むと、地面が少し削れ土ぼこりが舞った。彼女の踏み込みの強さは削れた地面を見れば、一目瞭然だ。

 一瞬で俺との距離をつめてきた玖羽。

 玖羽の身体能力については何も知らないが、その辺にいる鉱石変化した大人と変わりない。鉱石化していても子供は子供、たいして力は強くないはずなんだけどな。まあ、あの鎌を振り回せてる時点でおかしいのはわかっていたが。

 そもそも、子供が鉱石化しているとはいえ大人と同じ身体能力なわけがないんだけどな。


 と、考えているうちに玖羽との距離は縮まっていき。

 後ろにバックステップで下がるのと同時に、さっきまで俺がいた地面がバンッ!! と音を立ててはじけ飛んだ。玖羽の鎌の一撃でである。同時に土煙が巻き上がった。


 カバーつけてるとはいえ、あれにあたったら痛そうだ。土煙で玖羽の姿は見えないが音は聞こえる。

 そして土煙から刃を寝かせ薙ぎ払おうとする鎌が見える。


 どうしたものかと、一瞬の間に思案する。

 子供特有の身長の低さから繰り出される一撃は、しゃがむにしては低く、地面を蹴って避けるには難しい高さだ。

 そして俺の選んだ答えは、鎌の内側に飛び込むことだった。


 俺は内側に飛び込みそして、鎌の柄を下から長剣の側面で打撃する

 それにより上へとそれた鎌は勢いのままに斜め上に向かい、俺はがら空きの玖羽の体にタックルをする。


「わっ」


 玖羽は持っていた鎌から手が離れ、そのまま空中を飛ぶ。


 飛んだまでは良かった。受け身の取り方を知らない玖羽は頭から落ちそうになっていた。

 俺はタックルをした勢いのまま、更に踏み込み玖羽に飛びついて抱きしめそのまま訓練場を転がった。


 そして……

 俺は訓練場の硬い地面に正座して、須摩さんに怒られていた。


「あのね燈火くん、武器を使った訓練だから多少の危険はつきものだ。だけど、受け身の仕方も知らない初心者を飛ばすのはいかがなものなのかな?」

「はい……」

「実戦形式の訓練は、効率の面から見ても効果は高いけど。それはあるていどの動きができるようになった人という条件がある。簡単な訓練をしていると思っていた私も悪いけど、きみはこの子たちの保護者なんだから少しは気を付けたまえ」

「はい、すいませんでした」

「わかってくれたならいいよ。手加減をしてるとはいえ、何かあってからでは遅いからね」

「はい。ごめんな玖羽」

「楽しかった、痛くなかった。だいじょうぶ。あとおなかもすいた」


 実際玖羽に怪我はなかった。プロテクターを着ていたこともあり傷もなかった。

 そしてお腹がすいたことを告げるように、ぐーとお腹の鳴る音もした。元気そうでよかった。


「もうお昼かい?」


 周りを見ると、ちらほらと訓練場を出ていくのが見えた。


「そうみたいですね、今日はこのへんで帰ります。玖羽、紫焔帰りつつお昼買って帰るぞ。あと須摩さんにお礼言っとけ」

『はーい。おねえさんありがとうございました』

「うん、また明日ね」


 玖羽と紫焔の手を握り、警察署を出た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る