第9話 種族階級と意外な魔族

ギルドに着いた俺と沙紀を待っていたのは、クウラとは違った艶やかさを放つ1人のエルフだった。


「あなた達がタクマとサキね」

「あぁ、アンタは?」

「私はターニャ。王宮に仕えて居る精霊族よ」

「俺達に何の用だ?」

「あなた達が魔族を捜すと聞いて王都から急いで来たのよ?」

「魔族捜しに何の関係があるんだ?」

「コレを持っていて欲しいのよ」


ターニャが出して見せてきた物は、大きな翡翠の宝石が付いた銀色の腕輪だ。


「何の為の腕輪だ?」

「魔族を捕らえる為の腕輪よ」

「この腕輪でか?」

「そうよ!魔族を見つけたら腕輪の翡翠石をかざすだけで魔族を吸い込む事が出来る優れ物よ」

「捕らえた魔族はどうなる?」

「魔封壁の牢獄に入れられるわ」


話をしていた所へクウラがやって来た。


「クウラ、魔族捜しで聞きたい事があるんだがいいか?」

「何かしら?」

「敵意の無い魔族はどうすればいい?」

「その時敵意が無くても場が変われば敵意をあらわにする可能性も考えられるでしょ?」

「確かにそうだが、真っ当な魔族だって中には居るだろ?」

「ええ、居るわね」

「そう言う魔族なら共存だって出来るんじゃねぇのか?」


ターニャが俺とクウラの会話に割るように入って来た。

「あなた面白い事を言うのね。魔族と共存?あり得ないわね」

「なんでだ?」

「それが世の摂理だからよ」

「アンタ等精霊族だって人と共存してるだろ?」

「それは違うわよ。私達精霊族が人を従えて居るのよ」

「どういう事だ?」

「この世界には神族が居て、その下に私達の精霊族、更にその下に人族と獣人族が居て魔族は更にその下よ」

「種族階級ってやつか?」

「そうよ。だから私達は王宮に仕えてたり、主要機関の長の立場に居たりと出来るのよ。人族の上に立つ存在だからって理由でね」

「だからって共存出来ない理由にはならんだろ?」

「いいえ、それだけの理由だからこそ共存出来ないのよ!それを許せば神族と魔族の共存を認める事になるからよ」


どうやらこの世界では、種族階級は絶対的なようだ。


年端のいかない子供であろうと魔族と分かれば牢獄に入れられる。俺にはそんなむごい事は出来ない。それならば見てみぬ振りをするしかない。


「アンタ等の言い分は分かった。俺は俺のやり方で魔族を捕らえさせてもらうからな」

「魔族を捕らえて貰えるなら好きに動いて構わないわ」

「それと報酬の件も忘れないでくれよ」

「ええ分かっているわ。これは昨日の分よ」

クウラは銀貨がぎっしり入った小袋渡してくれた。中には銀貨の他に金貨1枚が入っていた。


(少し色を付けてあるわ。昨日のお礼よ)

そう小声で言った後、俺の耳をかぷっと噛んできた。


それから魔族捕縛について話があると言う事で、俺と沙紀は応接室の様な場所に通された。

暫くしてクウラが4人分の飲み物を持ってやって来た。

部屋には俺と沙紀、クウラとターニャの4人が居る。


紅茶の様な飲み物を飲みながら魔族捕縛について話し合い、先ずは西の森から調査する事になった。森を抜けるとトリスと言う街があると言うので、暫くはアルタゴとトリスの往復になるだろう。


俺は魔族を捜しながら風呂造りの素材も集める事にした。


「じゃあ早速出掛けるか」

「くれぐれも無理をしないようにね」

「分かっている」


俺と沙紀は西門から出て森に向かった。


「風呂の材料を集めながら魔族を捜すからな」

「うん、頑張ってねっ!」


俺はアサルトライフルを出しクリエイトバレットと念じた途端右目に痛みが走った。


「どうだ、変わったか?」

「うん、緑色になったよっ」


俺は眼の変化を確認してから、2m程の板を連想し1本の木に向かい弾を撃った。

木はイメージ通りに板へと変化した。その数20枚。1本の木から20枚の板なら効率がいい。

俺は指輪に触れ20枚の板をアイテムボックスに入れた。


「森だけあって迷いそうな感じだな」

「夜だと右も左も分からなくなるねっ」


まだ日中は道が見えるから迷わず進めるが街灯もないから夜は危険な場所だった。


適当に木を撃ち板にし260枚まで集まっていた。板ばかり集めていても仕方がないと思い、近くにあった大岩をレンガを連想し撃ち込んだところ、大岩1つで100個の石レンガが手に入った。


森を進んで居ても人と遭遇するどころか魔物すら遭遇しないので、材料集めをしている感じになっていた。


「誰ともすれ違わないね?」

「そうだな」

「魔族も出て来ないしねっ」

「話は変わるが風呂は露天でもいいか?」

「露天風呂!?イイねっ!」

「なら決まりだな」

「でも何処につくるの?」

「そこだよなぁ…」


などと話をしていたらガサッと笹を揺らす音が聞こえた。

俺は片手にアサルトライフルを持ち、もう片方のの手でマグナム銃を取り出した。

音の聞こえた方を目を凝らしながら見ていると、1匹の大きな猪が見えた。


「やっと魔物と出会えたな」

「魔物ってより動物だよねっ」

「これで試し撃ちが出来る」


距離はあるが俺は猪に向けてマグナム銃で1発の弾丸を撃った。

弾丸は発射後直ぐに消え、猪の直前で再び出現しそのまま猪に命中した。


「ギャヒッ」


猪は弾丸を受けてから数歩動いた後、バタッと横に倒れた。


「わぁー当たった!」


俺達は倒れた猪の元へ行き生死の確認した後、アイテムボックスに入れた。猪はブラックボアと言う魔物だった。


「食肉として使えるんだろうか?」

「どうなんだろうね…猪だから食べられそうな気はするけど」

「ま、ギルドに持ってきゃ分かるだろうよ」


再びトリスへ向け歩みはじめた。

20分程歩いたところで森を抜け草原の様な場所に出た。


長閑のどかな田舎って雰囲気だね」

「ばあちゃんの家を思い出すなぁ」

「そう言えば長野のおばあちゃんの所もこんな感じだったね…元気にしてるかなぁ」

「もう行けねぇーんだな…俺達」

「そうだね……それ考えたらちょっと悲しくなっちゃった」


俺達は少ししんみりした空気に包まれた。

しかし、そんな空気を打ち破るかのように


<魔族の反応ありでぇーす!>


感傷に浸っていた雰囲気を見事にぶち壊すひと言だった。


「近くに魔族が居る様だな」

「あたしの方も魔族反応を検知したみたい」


だが、人影どころか獣すら見当たらない。

周囲に遮蔽物の無い広大な空間なので見落としてしまう事など考えられない。


<接近してまぁーす!>

「どこだってんだ!」

「拓真、上!」

黒い羽根を生やした何かが、こちらに急降下していた。


俺は透かさずマグナム銃で狙いを定め撃ち込んだ。

だが奴は弾道を読むかの様な回避行動をした。

しかし、そんな事で回避出来るほど次元弾は甘くなかった。

弾は奴が回避した先に出現し見事に命中し、奴はドサッと落ちてきた。


「いったぁーいっ!」

落ちてきた魔族は黒いドレスを纏った女の姿をしていた。


「弾丸が羽の筋に当たった事で、羽を動かせず落ちたようだな」

「いきなり撃つなんて酷いじゃなぁーい……あいたたっ」

「いきなりはお前の方だろ!上空から急降下して来やがって!」

「だって、やっと人を見つけたんだから急ぐに決まってるじゃない!」

「俺達を襲おうと思って急いだんだろ」

「違うし!って、どうすんのよコレ!血が止まらないじゃない!」

「襲おうとしたお前が悪いんだろ!」

「なんか痴話ゲンカしてるみたいだよ…」

「それと!お前じゃないからね!ミントって名前あるんだから!」

「知らねぇーし」

「じゃあミントちゃんは何がしたかったの?」

「人と仲良くしたかっただけだし…べぇーだ」

俺に向いて舌を出して、あっかんべぇをしてきた。


「ってか、そんな姿でうろチョロしてたら俺等じゃない奴でもお前を攻撃するぞ?」

「あっ、そうだった…人に会う時は人化しとくんだよって、おばあちゃんに言われてたんだった」

「おばあちゃんか…」

「なんか悪い子じゃなさそうだね」

「チョッと待ってね、いま人化するから…」


俺達は待った。そう、ただ只管ひたすら持っていた。


「ああぁぁぁあ!」

「なんだ!?」

「羽怪我してて人化出来ないよ…どうしよう」


撃ったのは俺だから少し罪悪感を感じた。


「…っ!」


治癒弾ヒーリングバレットの仕様が可能になりました>


「拓真、目が白くなってるけど…新しい能力?」

「あぁ、しかも都合良すぎなくらいの能力が使える」

「回復系かな?」

「おい、お前!」

「ミントって言ったでしょ!」

「羽を治せば人の姿に成れるんだな?」

「そうだけど、治せるの!?」

「あぁ、今から治してやる!動くなよ」


俺がマグナム銃を構えた途端、逃げ出しやがった。

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