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ノックの音で松浦は廊下に出た。

石鹸は無かったはずなのに女の子からいい匂いがした。


「お風呂ありがとうございます。最高でした」


女の子は丁寧にお辞儀をした。胸元がはだける。が松浦は見なかった。数回、エロ本で処理したので今はそういう気持ちは失せていた。むしろ見るのは失礼にあたると思った。


「名前まだ言ってなかったですね。アユミと言います」

女の子はチョコンとお辞儀をし言った。松浦は、マユミ?と聞き返し、女はもう一度アユミ。と答えた。


松浦は、松浦。と名乗った。下の名前は?と聞かれたが、言いたくない。と松浦は答えた。

松浦の下の名前はアユムだった。

アユミはそれ以上聞かなかった。


沈黙。


「そこに本があるから。お風呂に入りたかったら勝手に入って」

沈黙に耐えられず松浦は言った。

「ありがとう」

アユミの笑顔。松浦はなんと言っていいか分からない。別に本を読もうが風呂に入ろうが損はしない。


再び沈黙。


「ここには入らないでね」

松浦は気まずい沈黙から逃げるようにそれだけ言ってから寝室に入った。


廊下にアユミ一人。松浦はゲイなのかも。と思った。数滴の香水を付けわざと胸元を見せたのにもかかわらず、何の反応もなかった。わざととは思えない。むしろ私を嫌悪してる?いやそんな事はあり得ない。嫌悪してるならこんなに優しくはしない。


奥の機械室を覗く。そこから男三人の姿は見えない。でもまだ生きてはいるはずだ。

今更助けても無意味。むしろ助けたら私も殺される。

ガラスに耳をあててみるが何も聞こえない。


たくさんの本の中から適当に数冊取り出し倉庫に戻る。足元に何かぶつかる。電池式のランタンと懐中電灯。


とりあえず睡眠を取ろうとアユミは思った。

安心して寝れる時には寝ておく。食べられる時に食べておく。

明日はどうなるか分からないのだ。


アユミは嫌という程理解している。

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