.10
屋上から降りる時。
「いつ出てく?」
松浦は背を向けて言った。その言葉は半分本音で半分ウソだった。出て行って欲しい。ソバに居て欲しい。
「ここに居たらダメなの?」
松浦はそれにうなづく。
「そう。分かった。ありがとうね。出て行くわ」
女の子の諦めのいい言葉に松浦は思わず振り返った。振り返ったはいいが何も言葉が出ない。
「じゃあ、必ず出ていく。でも、もう少しだけ居させて」
女の子の言葉が続き松浦はうなづいた。うなづくしか出来なかった。ホッとした自分に松浦は気付いた。
余分な布団や布切れは焼却炉の向こう側にある。ゾンビが居るから取りに行けない。仕方なく寝室のマットや毛布を適当に剥ぎ取り倉庫に移す。
「本はここにある。風呂も入れる」
松浦はそれだけ言って倉庫から出ようとした。
「お風呂あるの?入りたい」
女の子が初めて抑揚の抑えられない嬉々とした声で言った。
「ま、待ってて」
松浦は風呂を沸かしに倉庫から出た。
新しい服の場所。水の出る場所。風呂の沸かし方を教えて松浦は寝室に閉じこもった。
焼却炉は覗かない。風呂も覗かない。
そのまま部屋に戻る。
人との距離が近付けば、全て萎えてしまう気がした。
だから名前も聞かなかった。聞かれなかったのもある。
このまま女の子が出て行けばまた独りに。
今までずっと平気だった。そして独りの方が気楽なのも知っている。だが今は何故か心が妙に落ち着かない。
振り払うように松浦はエロ本を取り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます