空(そら)と宇宙(そら)

 まずは次元跳躍じげんちょうやくによる回避運動を行いつつ、エンゲージ。

 敵の戦闘能力をさぐる。

 アストラルは味方全機・無被撃墜ひげきついのパーフェクト・ゲームが行えるとまでは楽観視せず、序盤は一部の下位DOOMSドゥームズと魔造戦闘機を使い捨てにする気で戦闘を行っていた。

 相手のバリアと電磁迷彩は完全なものではない。攻撃する際はバリアの一部を解除する必要がある。

 敵の電磁迷彩はマギアの魔導探知のリンクで位置情報が筒抜けだ。仮にそのリンクがなくとも、アストラルと上位DOOMSの演算力で操縦士の思考を演算し切って、敵の攻撃位置から進行方向などの未来位置を予測するだけだったろうが(ただし、後者の方はそれなりの味方機の被撃墜を覚悟する必要があるだろう)。

 敵エイリアンは、単発式の電磁砲をおそらくは二門装備。攻撃・着弾時に次元干渉を確認。

 敵の弾頭の種類は装甲を無力化してこちらの空間ごとダメージを与える武器だと断定。

 他の装備は不明だが、今のところそれによる兵器でしか攻撃を受けていない。

 何機か魔造戦闘機のシグナルロストを確認。

 なかなかの高初速だ。一般的な戦闘でよくやる、対・空対空ミサイル用の次元跳躍では超音速の攻撃には対応しづらいらしかった。

「面白い」

『ちょっと、ウチ特製の魔造戦闘機に傷をつけるどころか、撃墜って止めろ! 面白がっていないで、戦闘を最適効率化しなさい!』

 アストラルの思念にノイズ。マギアからのテレパシーだった。

「もうやっている。邪魔をしないでくれないか」

『こっちも! 敵の戦闘機が都市を爆撃でもしないか、徹底して見張っているところよ。まあ、万が一アンタがヘマやって撃ち漏らしたのが来ても、対応してあげるけどね!』

「分かった。敵の高度が一万メートルを切るまでにカタをつけよう」

 魔造戦闘機は外部の空気、酸素を取り入れる必要のない航空機で、ロケット+次元跳躍によるワープ能力で移動を行う。

 全世界的に魔造戦闘機が散らされているのと、ワープ航法を利用してすぐさま戦闘空域に入れるので、多少燃料タンクの量が、燃焼させるための液体酸素の量分減っても継戦能力に問題はなかった。

 まして、アストラルや上位DOOMSの指揮能力が加われば、この戦況は駒の動かし方をようやく理解した子どもが世界チャンピオンに戦いを挑むような、そんなボードゲームの図だった。

 こちらの魔造戦闘機を狙った瞬間に、大幅可動式二〇ミリ電磁投射砲が、対要塞粉砕砲が攻撃、銃砲撃を行い、次々の撃墜を行った。

 青々とした清々しい大空に、爆炎が舞う。

 一定の機体を、敵からの攻撃を受けやすい位置に囮として配置、別の機体が対要塞粉砕砲でバリアの隙間を攻撃する。

 囮役の下位DOOMSに拒否権はなく、まさしく命がけで戦わされていた。

 元々、凶暴な性質を持つ下位DOOMSは、上位DOOMSほどには臆病ではないが、無鉄砲に命を賭けるほど勇敢ではない。しかし、日々の訓練で徹底した統率がとれており、他の機体に自身の命を預けるという行為に抵抗は無いようだった。

 やけくそ気味に敵機が機体下部のウェポン・ベイ(爆弾槽ばくだんそう)から反物質爆弾を落下させるが全て爆発前に敵機もろとも撃墜させた。

 パーフェクトではないものの、圧倒的なワンサイド・ゲームだった。

「あとは敵の本丸に切り込んだムジークだけだな」

『まあ、大丈夫でしょ。身体だけは無駄に頑丈だし』

 テレパシーでやり取りをするアストラルとマギアだった。

「頭は悪いが、魔法剣術だけは腕が立つ。それに、お前の国宝級の魔導具でさらに強化されている」

『言うまでもないことね。ムジークは私の魔導具のポテンシャルを最大限引き出せる唯一の存在よ。頭は悪いけどね』

 思いっきり馬鹿にしているが、世界最高峰の頭脳相手に馬鹿にされているだけまだ救いがあるような気がする。そんなやり取りだった。



 敵エイリアンの宇宙船、母船がその小さな影を捉えた。

 ムジークが超音速で推進し、その宇宙船へと着地する。不自然な形で彼の足元の甲板が巻き込まれドロドロに溶けて分解されていく。

 そのまま足場を失くしてしまうのも格好がつかないので、彼は飛行魔法により全身を制御。無重力に身を任せる。

 エイリアンは驚愕していた。反物質ミサイルを全弾撃ち落としただけでなく、戦闘開始から一時間も経たずに戦闘機部隊が全滅していた。

 眼の前の敵も軽々と次元の壁に干渉してきており、わけがわからなかった。

 もはや、この母船で突っ込むか、逃げるしかない。

 ただ、逃げるにしても、ただの一人も倒さずに本星に戻ったら弁解の余地もなく処分されてしまうだろう、とも思った彼らはムジークに対し攻撃を行った。

 戦闘機にも搭載されていた異次元砲を向け、砲撃する。母船の本体を破壊する危険性もあったが、背に腹は代えられない。

 空間を歪曲させ、どんな防壁も無効化する砲弾がムジークに着弾する、前に切断された。

 ムジークは大振りの剣を握っていたが、それを振る様子もなく、敵の攻撃たる砲弾や砲身を切断していた。

 超音速の砲弾をわけもなく切断し、効果を無効化する。さらにわけが分からなかった。

 余る兵装で次から次へと砲撃を行うが全て斬り払われる。

 仮に砲弾が直撃していたとしても、彼の鎧の前には無力であっただろう。

 ムジークだけがこの世で発動を許される魔法は、別の物理定数を持つ宇宙のそのものを身にまとうものだった。

 物理定数そのものが違う宇宙に別の物理法則を持ち込むことは許されない。基本的に、その魔法の発動中は何人たりともその身に触れることはできないのだ。

「面倒だな。投降する気もなさそうだし」

 ムジークがその大剣をようやく動かし、掲げた。

 閃光、爆光。

 宇宙の開闢かいびゃく、爆誕時の超光速の粒子が不規則に放たれ、敵エイリアンの母星がまとう次元の壁に着弾する。次元の壁の処理能力を強引に押し切り、宇宙船の各所を貫通、穴を空ける。

「そろそろ投降したほうがいいんじゃないのか?」

 言葉が通じないことは分かっていたが、一応ムジークは語りかけた。


 そこで、爆発。


 大爆発というのも馬鹿馬鹿しくなるくらいの、母船の対消滅エンジンを暴走させた大爆発だった。

 もはやこれまで、と一万名以上の敵エイリアンが覚悟を決め、自爆することにしたのだ。

 白い閃光が宇宙に現れる。

『爆発中悪いんだけど、あなたの魔法を強化する私の鎧で、あれだけの規模の対消滅爆発を防げるかしら。聞いてる?』

 マギアのあっけからんとしたテレパシーでの声に、ムジークが同じくテレパシーで応じる。

『おかげ様で、爆発のほぼ中心部で生きているよ。物理情報が自動で遮断され過ぎていてテレパシーでようやく、状況を察した』

 アストラルは、少しは驚いた声でムジークに語りかけた。

『対消滅の着弾を喰らって生き残れる人類がいるとはな。まあまあ驚いた。爆発のおかげで上位DOOMSの一部が驚いて逃げだしてしまったが……。

 まあ、作戦終了だったから問題ないが』

『俺の作戦はまだ終わってないんだが!? これ、どこへ向かえばいいんだ?』

 マギアはため息一つ吐いて、

『座標を送るわ』とだけ言った。



 場所はまた、最強職三人の居間に戻る。

 三人が三人とも、こたつに入って暖を取っていた。

「まあまあ死ぬかと思いましたよ、今回ばかりは」

 愚痴をこぼすムジークだった。鎧は脱いで、こたつのすぐそばに置いてある。

「酸素も魔法で合成できるから、宇宙空間でも死にませんよ」

「対消滅による爆発も、別の物理法則下では完全に無効化されたようだしな」

 マギアとアストラルのやる気のない反応に、ムジークがさらに不満を述べる。

「お前らだけ安全圏でだらだらしやがって……」

 アストラルが肩をすくめて、

「心外だな。今回のはなかなか、久しぶりの大仕事だった」

 マギアが横目でアストラルを見て、

「あんたの罪状も軽くなるかもね」と言った。

「ああ、あんときのか。

 世界が滅びかけたのを俺とマギアが全力で止めて、お前、今でもマギアに首根っこ掴まれているんだったな」

「別に多少自由が制限されていても構わないが、とりあえず一生、この星は守らないといけないようだ」

「なんか不公平よねー。それくらいなら私たちもやっているのに」

 そうして三人の会話はいったん収まった。

 ムジークは所属する国と軍が自分を使い倒そうとしていると独り言で不満を言い、

 マギアは次なるマッドな発明と結界の最効率化について考え、

 アストラルは過去に思いを寄せた。


 世界はまだまだ、平和そうだった。

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チートで無双で最強職!? 書い人(かいと)/kait39 @kait39

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