第11話 とある怖くない魔族

ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。

ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。

ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。



「だから怖い魔族じゃねえって言ってんだろうが!!」


絶叫したスライム型魔族に、

通りがかりの魔族が怪訝に眉をひそめる。


「なんだ? 一体どうしたんだお前」


「何だも何もない! これだけ怖い魔族じゃないって

アピールしているのに、どうして俺を

仲間にしようって人間が現れないんだ!」


「は? いや……ていうか、お前人間の

仲間になりたいの? しかもそれを

魔族の俺に言っちゃうんだ?」


「言ったからなんだよ。

どうせ俺を連れて行こうって

人間が現れないんだ。隠そうと

隠さなかろうと意味ないだろ」


「そうは思えないけど……

どうして人間に付いていきたいんだよ?」


「俺な……将来人間になりたいんだ?」


スライム型魔族の言葉に、

通りがかった魔族は首を傾げる。


「……は?」


「だから人間だよ。人間になるんだ」


「……それは気持ち的な話?」


「気持ちって何だよ。手足を生やして

二足歩行で歩いて、体に布を巻き付けて

髪の毛でおしゃれして

カフェで朝のティーを楽しむんだよ」


「……変化の魔法で化けるとか……?」


「それは人間に化けただけで

人間になってねえだろうが!」


通りがかった魔族は傾げた首を

さらに傾ける。


「いや……無理だろ。性転換だって大変なのに

種族ごと変わるなんて聞いたことないぞ」


「無理ってなんだよ! やる前から決めつけんな!」


「だって姿が全然違うじゃねえか」


「だいたいのラスボスだって、最後に変身するだろ!

だったら俺も人間に変身できるはずだ!」


「なんだよその理屈」


「ああ! それはどうにかすんだよ!

とにかく俺が悪い魔族じゃないって人間に

納得させる方法を考えろよ! このグズが!」


「……いやお前どっちかっていうと、悪いだろ。

人間どころか魔族の中でも」


「はあ? 意味分かんねえ! テメエの評価なんて

訊いてねえの! ナマ言ってねえで、さっさと

俺をいい奴にしやがれ! ぶっ殺すぞ!」


恫喝するように牙を剥くスライム型魔族に

通りがかった魔族は、やれやれと肩をすくめる。


「……人助けでもしてみたら?」


「こんなダンジョンの奥に、困っている人間なんて

いねえよ! テメエ、ちゃんと考えろ!」


「……募金を呼び掛けるとか」


「誰に!? 魔族に!? 適当言ってんじゃねえ!

捌いて肉屋に下ろして小遣い稼ぐぞ!」


「……音楽活動とか」


「テメエ、ついにふざけたな! 

よーし、首を差し出せ! 掻っ切って

肥溜めに沈めてやんよ!」


「だんだんと酷いぞ……」


暫し思案して、提案する。


「やはり人類にとって役立つことを

アピールすればいいよな。えっと……

なんか人間から慕われている奴の

真似をするとか」


「慕われて……? 誰だよそいつ」


「例えば……勇者とか?」


そう話してから、

通りがかった魔族が自身の失態に気付く。


「なるほどな」


スライム型魔族が――

凶悪な微笑みを浮かべていた。



===========================


部下からの救援連絡を受け、

ダンジョンの管理者たる魔族は現場に急いでいた。


「どういうことだ! まさかついに勇者が着たのか!」


「分かりません! ただ仲間たちが次々と……

あ、あれです!」


連絡に来た魔族が前方を指差す。

指の先には、血を流した無数の魔族が倒れていた。


「こ……これは何て酷い」


「ひい……恐ろしい……誰がこんな――ぐは!」


連絡に来た魔族が、血を吐いて

地面に倒れる。


管理者の魔族が倒れた魔族を確認する。

血を吐いた魔族の背中には


――肉厚の剣が突き刺さっていた。


――――

――――


ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。



声が聞こえた。

ハッと背後を振り返る。

だがそこには濁りのない闇だけが佇んでいた。



――――

――――


ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。



また声のした方を振り変える。

だがやはり、そこには闇だけがいる。



ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。

ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。

ピギー。ボクは怖い魔族じゃないよぉ。



「だ……誰だ! ふざけた真似をしていると

ぶっ殺すぞ!」



ピギー……


その声は――

魔族のすぐ背後から聞こえてきた。



魔族は――

ゆっくりと背後を――

振り返った――



そこには――




ボクは怖い魔族じゃないよぉ。

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