第32話 家族会議

 晩餐会が終わり宿舎に戻った僕は、テレポートで世界樹に来ていた。

 もちろんウルド達に今日の出来事を話すためである。


「連れて来ましたよアル」


「ありがとう」


「アル様今日はどうされたのですか!」


「今日は君たち3人に話があってね」


「はじめましてアル様」


「はじめましてスクルド」


 ウルドにお願いして早速3人に集まってもらった。


「スクルド! いつの間に戻ってたんだ?」


「今しがただよ」


「魔王はいいのかよ!」


「ああ、大丈夫だ」


「アル様! どうしてですか?」


「その前に……ベル……もうキャラ変えなくてもいいぞ?」


「え……でも」


「僕はクロノスだ」


「え」


「オヤジ……」


「え、え、え」


「アル様がオヤジ……」


「そうみたいだ、僕にその辺の記憶は無いんだけどね」


「ちょっと待て……まだ事情が飲み込めねぇ」


「スクルド、まず君が知っている事情を話してくれないか」


「いいよ」


 スクルドの話は少しややこしかったので、まず結論から、蒼井あおい あるはクロノスが日本に転生した時に名乗っていた名前、つまりアルとクロノスは同一人物、僕はクロノスで確定だ。


 僕にとっては日本が異世界だったのだ。


 スクルドは、この話を今から5年後のウルドから伝え聞いている。

 

 その現在から5年後のウルドは、同じく現在から5年後のスクルドから伝え聞いている。


 何故そのような、まどろっこしい事になったのかは、彼女達の能力に起因している。


 ウルドは過去を司る神だ。

 過去に干渉する事が出来る。

 過去に干渉できると言っても、自らに干渉したり、自ら過去に赴いたり、誰かを送り込んだり、誰かを呼び寄せたりする事は出来ない。


 ただし僕を除く。


 スクルドは未来を司る神だ。

 未来に干渉する事が出来る。

 未来に干渉できると言っても、自らに干渉したり、自ら未来に赴いたり、誰かを送り込んだり、誰かを呼び寄せたりする事は出来ない。


 ただし僕を除く。


 スクルドは過去に干渉できないため、過去に伝える役目はウルド。

 ウルドは自分自身には干渉できないので、スクルドに伝えた。

 僕に伝えればと良かったのに、と思ったのだが、スクルドを選んだ理由は謎だ。


 スクルドがこの事実を未来のウルドから聞いたのは、僕がスクルドを呼び戻して欲しいとウルドに伝えた後だ。


 未来のスクルドは、クロノスの神格を頼りに僕をずっと探していた。


 未来のスクルドはさらに500年先の未来で僕を見つけたそうだ。


 僕は神格と分裂していたらしく、何かのきっかで再び神格と同化するタイミングで、未来のスクルドは僕に干渉し、自分のいる時代に僕を呼び寄せたそうだ。


 その後、僕はレオフェンに帰還し、ウルドにより今の時代に送られユグドラシルの森で目覚めた。


 こんなややこしい手順を踏んだのには理由がある。


 まず僕がいた未来ではレオフェンはすでに消滅している。


 僕と神格が同化するとレオフェンに帰還されるのだが、僕のいた時代には肝心のレオフェンがない。


 なので一旦スクルドは僕を自分の時代に呼び寄せ、そこで僕は神格と同化し、レオフェンに帰還を果たした。


 そこから更に僕を過去に送り込まなければならなかった理由は、魔王の手によって世界が消滅するタイミングだったからだ。


 本来なら僕に事情を直接説明すれば解決したのだろうが、それができるタイミングじゃなかった。


 ちなみにユグドラシルの森で寝ていたのは、ベルに頭突きで気絶させられたからだそうだ。


 初対面のベルの頭突きを、はじめてでないと感じたのは正解だった。


 こんなことが出来たのはクロノスに時間を移動できる能力があるからだ。

 時間旅行を楽しむことができるのは、クロノスのみなのだ。


 魔王との決戦が1年後になってしまったのは、僕がこの世界にきた影響で未来が変わってしまったのだろう。


 少なくとも5年後の魔王は僕に会ってなかったのだから。


「そんなわけで僕たちは家族で確定だな」


「そうですね」

「そうだよ」

「マジかよ……」


「ちなみに魔王との対決は1年後になったから」


「「「え」」」


「ウルドにはちらっと話したけど、今日魔王と会って、そんな話になった」


「魔王と話したのかよ……」


「結構話せるやつだった」


「さすが父さまだね」


「でも、今のままでは勝てないと暗に忠告されたよ」


「それはなぜでしょうか……」


「僕はまだ中途半端なんだとさ、君達も僕にクロノスの神格を感じないんだろ?」


「そうだね」「確かにな」「そうですね」


「クロノスとしての能力か、クロノスとしての記憶か、いずれにせよ1年で何とかしないとダメだ」


「アテはあるのですか?」


「ない、が、僕に所縁のある場所を教えて欲しい。しらみ潰ししかないだろうからな」


「わかりました」


「僕のことは僕の仲間たちにも話す、その時は君達もついて来て欲しい」


「わかりました」「ああ」「はいです」


「僕は今後もアルを名乗る。クロノスって響きも格好いいけど、便宜上呼び分けたい」


「確かにそっちの方がわかりやすいな」


「じゃぁ今日は一旦戻るよ、おやすみ」


「「「おやすみ」」」


「つか……オヤジにキスしちまったのか……」


「私を出し抜こうとするからですよ」


「ベルらしいじゃん」



 ——部屋に戻るとアンナ先生とユイリとレイラが待ち構えていた。これはまずい……


「あれ、どうしました?」

 とりあえず、ずっとぼけてみた。


「アルくん……何処に行ってたのですか……?」


「えっ……ちょっと世界樹に……」


「ついさっき勝手な行動はしないって約束……しましたよね?」

 言葉使いは丁寧だが、ユイリの迫力がハンパない。


「懲りないヤツだな……」

 言葉少なめに怒りを抑えるレイラ。


「あなたは、また勝手に決めて、勝手に動いて……また勝手に居なくなるつもりなの?」


 皆んな僕を心配しての事だ。


「ごめんなさい……でも、必要な……」


 違う、これは言い訳だ。


「本当は後日、改めて皆んなに話すつもりだったけど、今話します……」


「アンナ先生、ユイリ、レイラ落ち着いて聞いて欲しい」


 3人が頷く。


「僕は自分が誰なのか、ようやく分かりました」


「本当なの!」


「はい」


「さっきまで僕は、家族会議をしてまして」


「「「家族会議?!」」」


「ちょっと……まてアル……」

「世界樹に……って……」

「まさか……アルは……」


「ウルド、ベルダンディ、スクルドは僕の娘です」


「「「へ」」」


「僕は原初神、クロノスだったみたいです」


 3人はしばらくフリーズしたままだった。


 この事実は、流石に衝撃的が大き過ぎるので、時期が来るまでは、ここに居る4人だけの秘密にしようと言う事になった。

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