第28話 されど光は失われず

 ゲートで戻ると大広間にはアンナ先生とジュリが居た。


「あ、おはようございますアンナ先生、ジュリ」


「お……おはよう……アンナ、ジュリ」


「逢引? 朝帰り?」


「「違います!」」



「おはよう……ところで」


「……アル……アルくん?……」


「は、はい」


「ねぇ……その、ボロボロの服って……学園長にご用意していただいた謁見用の制服よね?」


「はい……」


「今日、謁見だって知ってるよね?」


「はい……」


「そのボロで、謁見するつもり?」


「……着替えます……」


「何に着替えるの?」


「いつもの……」


「なんで……なんでいつも……」


「アンナ待って、今回は私が悪いのです」


「ユイリは黙ってて!」


「は、はい」

 ユイリがアンナ先生に気圧された。


「アルくん……」


「はい……」


「まあいいわ……後でじっくりね……早く着替えて来なさい!」


「はい!」


 僕は着替えに戻った。


「アンナ最強説」


「私もそれ思う、おはよう!」


「「ジーニーおはよう」」


「ところでユイリはアルくんと何処で何してたの?」


「ムスタング平原で、手合わせを……」


「手合わせって……」


「聖なる光にアルの聖なる光を合わせると、凄いことになりました」


「何それ?」


「見た方が早いので、時間のある時にアルに頼みましょう」



 着替えに戻った僕はフォーマルな服を1着用意するべきか思案していた。

 かしこまった場所であっても戦闘にならないとは限らない。


(魔石もまだまだ余裕がある、1着ぐらい作るか……)


 いつもの如く、自動回復、自動MP回復、オート洗浄を付与したフォーマルな服を作り、それに着替えた。


(よし、これならアンナ先生の怒りも少しは……)


 ユイリが僕なら何でも対処できるってのは、やっぱり買いかぶりだ。アンナ先生に対処できない……もしかしたら僕が今1番恐れているのはアンナ先生に怒られることかもしれない…… 。


 結局何やかんやで僕が大広間に再び到着したのは、待ち合わせ時間ギリギリで、僕が最後だった。


「皆さんお待たせしました」


「あれ、アルその服どうしたんだ?」


「謁見用の服ダメにしちゃったんで作りました」


「作りましたって……今?」


「ですです」


「どうやってだよ……」


「あああ……スキルですよ!」


 女性陣は無言だった。


「皆さん? あれ? 似合ってないです?」


「違う、皆んな見惚れてる」


「え」


「に、に、に、似合ってるじゃないかアル、ま……まあまあだな」

 口火を切ったのはレイラだった。


「いいじゃん、いいじゃん! いつものと違って大人っぽいね!」

 ジニーは思った通りの反応をしてくれた。


「後輩の癖になんか生意気」

 メイも思った通りの反応だ。


「アル素敵です! 似合ってますよ!」

 アシッドさんはいつも僕の味方だ。


「……あの……本当にすみませんでした……」

 ユイリはまだ引きずっていた。


「まあ、あのラフな格好でよりはマシね……」

 アンナ先生の評価はともかく目的は果たした。


「皆様そろそろよろしいでしょうか?」


「あ、はい、よろしくお願いします」


 いよいよ参内の時間だ。


 手汗がやばい。




 ——陛下の元へは王国騎士団長のザックさんが案内してくれた。


 振る舞いについては、アンナ先生に教えてもらっていたが、緊張で頭が真っ白になってしまったので、とりあえず皆んなにあわせた。


 いよいよだ……。


「国王のホワイトモア・レインボーだ、皆の物、此度は遠路はるばるご足労であった。楽にするがよい」


『ハッ!』


「まず勇者ユイリよ」


「はい」


「厳しい戦いであったと聞いておる、そなたの活躍見事であった。今の世界があるのはそなたのお陰じゃ」


「勿体無いお言葉……」

「……陛下……その目は……」


「此度の戦でやられてしもうた。ワシの光は失われても、民が救われたのじゃ、安いものだ」


「お労しい……また陣頭指揮を取っておられたのですね」


「勇者や英雄殿には及ばんが、ワシの腕もなかなかのものじゃ、皆が命をかけて戦っておるのに、何もせぬと言うわけにはいかぬ」


 テレキャス放棄の時もそうだったが、名君だと改めて思った。


「英雄殿」


「はい」


「英雄殿の活躍はどれも耳を疑うものばかりじゃった。勇者と共に世界を救っていただき、感謝の言葉もない」


「勿体無いお言葉です」


「また晩餐会の時にでも、ゆっくり話を聞かせてくれ」


「承知しました」


 その後、各自、陛下より言葉を賜った。


 僕とユイリ、レイラ、ジュリ、ジニーは莫大な恩賞の目録を賜った。


 王都での屋敷も含まれていたけど、管理コストとすぐに考えるあたり、僕はまだこちらの世界に馴染みきっていないのかもしれない。


 僕はこれまでも自分の感情に任せて、行動してきた。

 その結果が今だ。

 毎日のようにアンナ先生には怒られているけど、悪くはない。

 だから今回も感情に任せて行動することにした。


 盲目を理由に王位を簒奪しようとする輩も現れるかもしれない。

 名君である陛下をこのままにしておくのは、この国に取ってマイナスだと判断した。


「陛下」


「どうされた英雄殿」


「陛下、あなたが光を奪われるには、まだ早すぎます。

盲目でないあなたが盲目になる事を僕は否定します」


『神の癒し』


 陛下に『神の癒し』を掛けた。


「お……おおおお……」

「陛下!」

「陛下如何されました!」


「目が……ワシの目に……再び光が……」


『『なんですと!』』


「英雄殿これは一体!?」


「僕に授けられた女神の加護の一つです」


「女神の加護!」


「僕は王国の善政に関心しております。

陛下の慧眼によるところが大きいと考えておりましたが、今日改めてそれを確信しました。

先ほども申し上げましたが、陛下が光を閉ざすには、まだ早すぎます」


「英雄殿……ありがとう……感謝する」


「そなたに取り戻してもらった光で、今後も国民を見守ることを約束しよう」


「恐縮至極です」


 こうして、国王との謁見は無事に終了した。



——「いやーやっと緊張から解放されました」


「アルくん」


「はい」


「多分ね……私を含め、皆んな言いたいことと聞きたいことがあると思うの」


「やっぱり?」


「とりあえず次の予定まで、アルくんの身柄は確保します」


「は……はい」


 てっきり皆んなが聞きたいのは『神の癒し』のことだと思っていたが、そうではなく、僕の物言いや行動へのクレームがメインだった。


 寛大な国王なので問題にはならなかったが、いきなり一国の国王に、治療魔法を掛けるのは大問題で、重罪になることもあるそうだ。


 冷静に考えれば当然のことである。


 心臓に悪いので、その手のことを勝手にやらないようにと強く釘を刺された。

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