第67話 余分なもの

 熊沢さんの家は、築40年以上の一軒家である。彼が産まれる前から、熊沢一家はそこにずっと住んでいた。

 その家の台所にはちょっとした床下収納があったが、彼の知る限り、このスペースはまったく使われていなかった。中のものを出し入れするために深く身をかがめなければならず、あまり便利とは言えない場所だった。

 家が建てられてから40年あまり、その床下収納は放置され続けていた。

 去年、いよいよキッチンの設備や水道管などが古くなってきたため、熊沢家の台所を大幅にリフォームすることになった。テーブルや食器棚などを運び出している最中、「念のため床下収納も見てみようか」と誰かが言い出した。

 そこで熊沢さんが懐中電灯で照らしてみると、湿った匂いのする空気の中、何か白っぽいものが見える。

 取り出してみると、白い蓋つきの陶器だった。円柱型で、持ち上げるとずっしりと重い。

 皆でよくよく改めてみると、何となく同じものをどこかで見たような気がする。

 つい先日、親戚の葬儀に出たばかりのお父さんが、ぼそりと言った。

「もしかしてこれ、骨壺じゃないか?」

 開けてみると、なんと中身が入っている。

 警察を呼ぶ大騒ぎになった。しかし調べてみても、40年間放置されていたはずの床下収納に、いったい誰がどうして骨壺を入れたのか、まったくわからなかった。

 中の骨が誰のものなのかも、一切不明のままだという。


 この話を聞いた浅井さんが、「あたし、似たような話知ってるよ」と突然話し始めた。

「あたしの姉が、昔リサイクルショップで働いててさ、たまに営業電話をかけてたんだって。不用品はありませんか? みたいな」

 ある日営業電話をかけると、若い女性の声がそれに応えた。

『骨壺って駄目ですか? 中身も入ってるんですけど』

 真面目そうなトーンだったが、浅井さんのお姉さんはてっきり冗談だと思って、小さく「ははは」と笑い声を上げた。すると「いいから引き取ってよ!」と金切り声で叫ばれ、叩きつけるように電話が切られてしまった。

「その後しばらく、ほんとに持ってくるんじゃないかって気がして怖かったって。だからまぁ、たまにあるのかもよ? そういう余分な骨壺って」

 全然別の話のような気もするが、よくわからないので何とも言えなかった。

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