第66話 鋏

 尚美さんが友人の結婚式に出席したときのこと。

 新郎と共にバージンロードを歩いて、チャペルを出ていく友人を拍手と共に見送っていた彼女は、ウェディングドレスの裾から手がニョキッと出ているのに気づいてぎょっとした。

 その手は華奢で、爪を赤く塗っていて、見るからに女性のものという感じだった。

 手はピースサインを作り、しきりに人差し指と中指を動かしている。

 尚美さんが見守る中、新婦はチョキチョキと動く手を裾にくっつけたまま、チャペルを出ていった。


 それから一年も経たないうちに、友人夫婦は離婚した。

 夫に結婚前から続いている不倫相手がいることが発覚したらしい。

(その不倫相手の女って、赤いマニキュアをつけてたんじゃない?)

 尚美さんはそう思ったが、友人に尋ねることはできなかった。

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