嫌われメイドは暗殺者?!人殺しはいやなので、愛で殺したいと思います

雪森まろん

第1話 困ったことになりました



それは、突然だった。

学校からの帰り道。

友達と一緒に歩いていたら、突然大きな音がした。

なんだろうと思って、音のしたほうを振り向いた瞬間。

視界は真っ白になった。


おかしい、おかしいと思い、何度も瞬きをして、ようやくぼんやりと周りの様子が見えてきた。

はっきり見えるようになるまで、1分も経たなかったと思う。

私はなぜか、長い長い列に並んでいた。

私の前には友達もいて、肩を叩いたが、気づいていないのか、無視しているのか、振りむいてくれない。

周りは静かだ。

話声の一つも聞こえない。

後ろを振り向くと、私の後ろにも、長い列は続いていた。

一体、なんの列なのだろう。

友達の背中を強めに叩いてみたけれど、反応はない。

肩を掴んで、思いっきりひっぱってみた。

こっちを向けばいいと思ったからだ。

けれども、力が強いのか、体が重いのか、どうやっても後ろを見てくれることはなかった。

仕方がないので、その列に並び続けた。

良くわからなかったが、この列からはみ出してはいけないような気がしたからだ。


どのくらい経っただろうか。

友達の番が来て、次は私が呼ばれた。

呼ばれたので前に進んでいくと、スーツを着た人に紙を一枚渡された。


「ここに名前を書いて」


ボールペンで、指定された場所に名前を書く。

インクは黒ではなく、赤だったので、一瞬戸惑ってしまったが、他に筆記用具は見当たらなかったので、そのまま書いた。


「あー、赤ね。じゃあ、これを持って君は向こうへ行ってね。次の人ー」


向こう、と指差された方には、誰もいない。

小さな明かりがぽつぽつと点いた廊下が伸びるだけだった。


「あの」

「いるんですよねー。たまに、あなたみたいな人が」

「それって、どういう意味ですか?」

「早く行って!次の人が来ちゃうから!」

「あ、はい」


納得はいかなかったが、追い払われるようにその場をあとにして、紙を手に持ち、廊下を歩く。

廊下の先には、パイプ椅子が一つ置いてあった。

パイプ椅子の横には、「こちらでお待ちください」の張り紙がある。

私は、素直にそこに座って待った。

そうするのが、当たり前だと思って疑わなかった。

ここは、廊下の突き当たりで、私の他には誰もいなかった。

扉らしきものもない。

あるのは、パイプ椅子が一つだけ。

どのくらい座っていただろうか。

すみません、と突然、声をかけられた。

びっくりして肩が跳ね、がたん、とパイプ椅子から落ちそうになった。

スーツ姿の男の人は、笑いもせずに無表情のまま、こちらを見下ろしている。

正直、すごく気まずい。


「お待たせいたしました。紙を見せていただけますか?」


手に持った紙を渡すと、その人はむしゃむしゃと紙を食べ始める。

予想もしない出来事にあっけにとられていると、彼は、もぐもぐと無言で食べ続け、ごくんと飲みこんでしまうと、私に向かい、指を伸ばしてきた。


「手続きはこれで終了です。それでは、いってらっしゃいませ」


いってらっしゃいとは、これまた変だなぁと思っていたら、その人は人差し指で、私の額を押した。

グイッ通され、そのままパイプ椅子ごと倒れて、気がついたら、空中に投げだされていた。


「え?」


四角い穴が空に開いていて、その先ではさっきの人が、手を振っていた。

それ以外は、青い空が一面に広がっている。

びゅうびゅうと風の音がうるさくて、男の人は小さくなっていく。

そこでようやく、自分が落ちていることに気付いた。


「何これなにこれなんで嘘でしょ!」


手足をばたつかせてみたが、掴む物もないし、地面もない。


「落ちてる落ちてる落ちてるぅぅう!!」


やばいやばいやばい!


「いーーーーーやーーーーー!!!」


青い空、白い雲。

嘘だろっ!

体制を変えれば、地面が見えるだろうか。

そう思って、思い切り体をひねってみた。

ぐるん、と視界が変化する。


「え!!」


すぐ近くに屋根が見えた。

ぶつかる!

そう思って、体をぐっと縮めた。

が、ぶつからずにすり抜けた。


「うそでしょー!」


そのまま、屋根をすり抜け、床を通り抜けた先にいた女性と目があった。


ごんっ!という衝撃と共に、私の視界は真っ黒になった。



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