学校一の美少女に妊娠したと言われ結婚を迫られました

しゆの

学校一の美少女は妹の友達

「あ、お兄さん、お邪魔してます」


 佐藤良平さとうりょうへいは喉が渇いたので、リビングに麦茶を飲みに来たら、一人の少女に話しかけられた。


「こんちは」


 顔見知り程度ではあるが、良平と少女──神崎桃花かんざきももかは面識がある。

 同じ家のリビングにいるのだし彼女だったり精神的妹、幼馴染みを想像するかもしれないが、本当に二人は顔見知り程度。

 そもそもオタクで引きこもり気味の良平に、桃花のような美少女と何か理由がないと知り合えるわけがないだろう。

 こうやって家にいるのだからちゃんと理由はあるのだが……

 初めて桃花と出会った時はアニメの女の子しか興味がない良平ですら衝撃を覚えたほど。

 日本人……というか世界でも珍しい肩まである桃色の髪。最初は染めているのかと思ったけど、生まれついての色らしい。

 長いまつ毛にアメジスト色の大きな瞳、透き通るような白い肌、やや小柄でありながら胸はかなり大きく、まるで作り物を見ているよう……というかアニメの世界から飛び出したと思えるほどの美少女だ。


「お兄ちゃん、せっかく桃花が遊びに来てるんだからもっと愛想良くしてよ」


 良平と桃花が顔見知りになった理由の少女──佐藤詩織(さとうしおり)もいた。

 名前でわかるように良平の一つ下の妹であり、桃花の親友。

 今日のように家に遊びに来たりして、自然と顔見知りになり、詩織の兄ということだから、良平のことをお兄さんと呼ぶようになった。


「無愛想で悪かったな」


 良平は引きこもり気味である故に友達との付き合い方がわからず、誰が相手でも基本的に無表情。

 人が嫌いとか虐められているわけではないが、何故かそうなってしまった。

 逆に詩織は表情豊かでいかにも今時の高校生と言った感じがして、桃花とは違う美少女。

 赤みがかった茶髪はやんわりとウェーブがかかっており、少しギャルをイメージさせる。

 基本的に薄化粧、クリっとした琥珀色の大きな瞳は血の繋がった兄の良平でも一応は美少女と思っているくらいだ。

 これで義理の妹であればアニメのような展開で少しくらいは興味を持ったかもしれないが、残念ながら詩織は正真正銘の妹。


「悪いとは言わないけど、少しくらいは笑った方がいいんじゃない?」

「できたらやってる」


 無理矢理笑おうと思えばできるのだが、どうしてもぎこきなくなってしまう。


「お、お兄さんはクールな感じでいいと思いますよ」

「それはあんまりフォローになっていない」


 桃花は誰が相手でも基本的に優しい。

 そんな性格とあの容姿なのだから相当モテるようで、学年が違う良平にも彼女の噂は良く耳に入ってくる。

 大体が告白してフラれたという話で、今のところは誰とも付き合うつもりはないらしい。

 どんなイケメンでも付き合うことができないとのことだから、顔で選んでいるわけじゃないのだろう。


「宿題でもしているのか?」


 リビングにあるテーブルの上には教科書やノートが広げられている。

 もう夏休みが終わるまで一週間を切っているのだから、一気に課題を終わらせようとしているのだろう。


「うん。わからないところは二人で教えあう形で。お兄ちゃんは終わったの?」

「終わった。これから録画したアニメを観まくる」

「相変わらずのオタクだね」

「うっせ。んじゃあ、宿題頑張ってね」


 良平は冷たい麦茶を飲み終わると自分の部屋に向かった。


☆ ☆ ☆


「やべ……観すぎたな」


 現在の時刻は二十一時。夕御飯も食べずに良平はずっとアニメを見ていた。

 途中で「ご飯だよ」と聞こえた気がするが、アニメに集中していて気づかなかったようだ。


「お風呂に入ってからご飯食べるか」


 タンスから着替えを取り出してお風呂場に向かう。

 脱衣所で服を脱いで良平は浴室のドアを開けると……。


「え?」

「……え? お兄さん?」


 入浴剤入りの湯船には桃花が浸かっていた。


「何で、お風呂に?」

「それはその……今日は泊まることになってたんですが、詩織ちゃんから聞いてませんか?」

「いや、全く……」


 お風呂だからお互いに服なんて着ておらず、生まれたままの姿だ。

 入浴剤で湯船は緑色に染まっているから桃花の身体は良く見えていないが、良平は隠す物が何もない。


「あ、あ……あ……」


 裸を見られたのと良平の裸を見てしまった恥ずかしさで、桃花の顔は一気に赤く染まっていく。


「ご、ごめんなさーい」


 悲鳴をあげられる前に良平は勢い良くドアを閉める。


「や、ヤバいかも……」


 自分が嫌われる分には一向に構わないが、そのせいで詩織まで嫌われてしまっては何を言われるかわかったものじゃない。

 それだけは絶対に避けなければいけないだろう。


「今の声どうしたの?」


 良平が大声を出すのが珍しいのか、詩織が走りながら脱衣所までやってきた。


「わお……お兄ちゃんがすっぽんぽん。まあ、脱衣所だから当たり前たけど」

「兄の裸を見たのに何の反応もなし」

「お兄ちゃんの裸を見てどう反応しろと? 私の裸を見られたら流石に恥ずかしいけども……」


 それもそうか……小学生の頃は一緒にお風呂に入っていたし、兄の裸を見ても今更って感じである。


「確か今って桃花がお風呂に入っているはずたよね? お兄ちゃんもしかして……」

「はい。お風呂に入っていると気づかずに入ろうとしました」

「はあ……桃花大丈夫?」


 詩織はドア越しに桃花に声をかける。


「う、うん。恥ずかしかったけど大丈夫。事故だから……」

「そっか。後でお兄ちゃんのことを殴っていいからね」


 事故とはいえ裸を見てしまったのだし、怒っても仕方はない。


「そ、そんなことはしないよ」

「桃花は優しいね。お兄ちゃんはとりあえず服を着て部屋に待機」

「うん」


 良平は服を着て自分の部屋に戻った。

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