現代百物語 第6話 すずしろ様
河野章
第1話 全ての始まりは
「そういえば先輩はどうして新也くんの能力を認めるようになったんです?」
年末前の、慌ただしい季節だった。
忘年会と称して、谷本新也(アラヤ)と藤崎柊輔、林基明は駅近くの一杯飲み屋で集まっていた。新也と藤崎の馴染みの店だった。店主は禿頭の60過ぎの親父だったが、今日は休みと見えて奥さんと若いバイトで回していた。
夏の終わりの祭り以来、3人で集まるのは久しぶりだった。
林が酒で顔を赤くしながら、興味津々という風で藤崎に聞いた。すでに3人ともほろ酔いで、近況報告を済ませた後だった。手元にはおでんと焼き鳥の残骸がある。
「いつだったかな……」
当の本人は首を傾げた。
新也は「え!?」と横の藤崎を振り返った。
「……あれを、忘れちゃったんですか?」
驚愕の顔で恐る恐ると問う。藤崎は首を捻っている。
「高校時代……だったような」
「そうです、僕が1年の冬で、先輩が2年生だった時のあれですよ」
「ああ!」
ようやく、藤崎が思い出したと膝を打った。
「あれだ。すずしろ様だ」
思い出せたのが嬉しいのか、笑顔になる。席の向こうから、林が興味津々と身を乗り出した。
「なんですか、そのすずしろ様って?」
ニヤッと藤崎が笑った。
「いわゆる、トイレの花子さんだよ。俺らの学校ではすずしろ様って名前で呼ばれてた」
な?と言われて、新也はぶるりと身を震わせた。相当に怖い思いをしたのか、嫌そうに身を縮こまらせる。
「それです。……話すなら、藤崎さんが話してくださいよ。僕は思い出すのも嫌です」
新也は不思議な力を持っていた。体質と言っても良い。
ありとあらゆる不思議な現象、幽霊だけでなく妖怪や都市伝説まで、が彼の周囲には寄ってくるのだ。本人はホラー体質と呼んでいた。
その事実を知っている数少ない友人たちがこの目の前の2人だ。
意地悪い笑顔を浮かべて、藤崎は新也を小突いた。
「勿論、最初は俺が話すよ。けど、メインはお前だろ。何たって俺には基本、見えないんだから」
「う、分かりました……」
お前も話せよと、先輩口調で言われては断れないのが後輩の性だ。
それで?と嬉しそうに先を促す林に、藤崎も嬉しそうに語り始めた。
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