第28話

 リリアナちゃんは次の日、交換学生として産業学校に来ることが決まった。

 いまや国にとって私たちの要望は最優先。

 人材の一人や二人、特に平民で特待生というリリアナちゃんの出向処理は素早く行われた。

 むしろ貴族学院の錬金術講師は貴族だったため、一週間ほどかかるらしい。

 これで山間部の製鉄技術を得ることができる。

 山側だと同じ砂鉄によるたたら製鉄でも、素材にチタンが混じっているらしい。うろ覚えだけど。

 とにかくだ、山間部の製鉄技術は、沿岸部の我々より優れている。

 素材も違えば、私たちでは買うしかない炭の作り方まで知っている。

 私……炭作ったら……正●丸作るんだ。煙を冷やして油とタール除くと木酢ができる。それを薄めて炭や薬草なんかと混ぜて練って固めると完成。(ボヤッとした知識)

 正●丸あると生存率上がるの。これ本当。特に夏場。毎年屋台から集団感染して死者が出る。冷蔵庫とアルコールスプレーがないとこれだよ!

 丸薬にしないで大きいまま固めてナイフで削ってたこともあるらしい。うん錬金術師たちに作ってもらおう。

 ヒールあるけど死ぬときは死ぬし、病気に効かないし。解毒のアンチドートも微妙に効かない。

 抗生物質は難しいというより、作り方が全くわからない。詰んだ。

 化学も医学も苦手だから作ってもらおうっと。私は、ちゃんと人に仕事を投げられる人なのだ。

 あとアルコールもたくさん作ろうっと。あと石けん。灰で作るんじゃなくて苛性ソーダのやつ。

 あれ……そういや火薬作ったときに途中でフェノール作ったわ。応用すれば殺菌剤も作れるよね。殺菌剤の作り方わからないけど。

 というか、そもそも菌とか細菌とかウイルスの存在を証明せねばならないわけで。

 顕微鏡? 光学技術って機械とはまた別の専門分野なんだよね。うーん、作れる気がしない。いいや、魔法を使って鏡を作る職人はいるのでそっちに丸投げしてしまおう。

 結局、この辺の知識は全くないので、貴族学院にも協力をお願いした。

 そしたら機関車の提供を求められたので、設計図と一緒に提供。

 納入先は一応国王陛下である。所有権が移ったので分解の許可も取る。

 たとえリバースエンジニアリングされても、職人も工作機械も材料もこっちが握っているので、貴族学院では絶対に作れないという自信がある。くくく、設計図程度で作れると思わない方がいいのだよ。どれだけ苦労したと思っているのかね。

 魔術で作った紙は一定時間で消えてしまうので手書きでコピー。効率が悪いので、早く端末にチャットとファイル転送を実装したい。

 あと全世界のソースコードをホスティングするサービスとかも。

 というわけで帰りは馬車になったのだ。

 やはり機関車が欲しいでゴザル。

 ただ今回の蒸気自動車の成功で正式に予算が割り当てられた。

 試験的鉄道敷設の許可は下りたのだ。

 鋼鉄の生産量の問題は常にあるけどね。

 そして王都最終日。

 私は買い食い……じゃなくて、土産物を買いに街を歩いていた。

 ウィルたちや護衛もついて。

 そして金物屋が目につく。

 鍛冶屋から仕入れた、釘とかヤスリとかを売っている店だ。

 そこで私は曲尺かねじゃくを見つけた。

 途中から曲がっていて、直角に真っ直ぐ線を引きたいときに使う道具だ。

 だけど何かがおかしい。


「……え?」


 とたんに顔が青くなった。

 お嬢様育ちでものを知らないのがあだになった。

 こんなところに穴があったとは。


「うぃ、ウィル……この曲尺……サイズがおかしくない?」


 私たちが使っている物差しと目盛りの大きさが違うのだ。

 ハンドメイドだからというわけではなく、明らかにおかしい。


「なにが?」


「いやだって産業学校のと違う」


「ああ、そういうことか。長さは昔の名工って言われる職人の手のサイズが基準だっけ。親方の出身地によって四つくらい基準があるはずだぞ。ウラヤーは大工の名工だったかな」


 メートル表記に騙された。

 そりゃそうだ。この世界にメートル原器があるはずない。

 私の知っているメートルと、この世界のメートルが同じとは限らないわけだ。

 しかも四つも基準がある。江戸時代の京都と大阪の尺の違いみたいなものだ。

 そういう罠を仕掛けるのやめて!

 本当の機械系じゃないから簡単に騙されちゃうから!


「単位は重要なのです……」


「血走った目で言うのやめろ」


 なるほど、精度がおかしい理由はそこにもあったのだ。

 思わぬ伏兵に頭が痛くなる。

 とりあえず物差しをいくつも買って検証だ。

 CADの寸法は狂ってないから、ウラヤーと実家の物差しの長さは同じ。

 気が付かなかったわけである。

 とりあえず、ウラヤーを基準としてレーザーで測って正確な変換表を作ろう。

 完全に怖くなったので秤と分銅なども一通り買っていく。

 こうやって荷物がどんどん増えていく。

 ウィルは「そんな細かいことを」って顔をしていたが私は真剣だ。

 そんな私の頭にジョセフは手を載せた。


「レイラはがんばってるな」


「お、おう。ありがとう」


 一番無口な人に褒められるとうれしいよね。

 よし決めた。鳥人間やろう。


「いま……邪悪なことを考えた」


「ジョセフっち。なぜわかる?」


「レイラもリリアナもすぐ顔に出る」


 私はいつもつるんでる友だちだからいいとして、リリアナちゃんも!


「えっと、どこまで進んだの?」


「なにが?」


 ジョセフは、いたずらをした男の子みたいにほほ笑む。

 私はウィルの袖を引っ張る。


「わかるウィル。これがモテる男だよ! ウィルにないものを全部持ってる男だよ!」


「なんだその理不尽極まりない発言は!」


 いやウィルがモテないとまでは言わない。いいやつだ。

 まーくんも付き合いが長くならなければ、ポンコツ度合いが発覚することはないだろう。

 だがジョセフは別格なのだ。


「二人はお似合いだな」


 ジョセフがそう言うとウィルが破顔した。


「こいつとつき合ってられるのは俺くらいだろうな」


「お師匠様といると命がいくつあっても足りませんからね」


 ひどいセリフを放ったのは、まーくん。

 でも私は笑っていた。

 もう、余裕があったのだ。

 だけどね、物を作るのが楽しくて完全に忘れていたのだ。

 光の乙女であるリリアナちゃんのイベント。

 ドラゴン退治を。

 アーサーとかその他の仲良くなったヒーローの中で一番好感度が高い子が聖剣を抜くんだよね。

 まだかなり先だけど、とても大きい問題があるんだ。

 だってリリアナちゃん、誰ともフラグ立ててないじゃん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る