幕間話 客観的に見ましょう!


 思うのは、今日日調べようと思えばいくらでも調べられるのに、どうして他人に透明な悪意を示すのだろうか。何故、そのカウンターが返ってこないと思っているのだろうか。自分自身、財産、家族……。どうして常に自分の番だけだと思っているのだろうか。人は皆、無敵スイッチを持っている。要するに、過程はともかくとして、結論だけ言うと、押せば復讐できる。押すか押さないかだけで、どうして、相手の手に握られているのに、相手に攻撃するのだろうか。無敵の人になってしまえば、無敵スイッチは簡単に押せる。ただ、私にはそんなことをする無謀さはなかった。勇気もなかった。臆病だった。それに、人間に憧れていたから、少しでも人間に近づきたかった。人間を信仰していたのかもしれない。





 『■大▲研究室連続殺傷事件』


 ■大▲研究室連続殺傷事件とは、α年β月からγ月にかけて起こった連続殺傷事件である。劇場型犯罪として知られている。犯人はいずれも未だに特定されていない。


  概要

 α年β月δ日、午後ε時ζ分頃、■大学3号研究棟▲研究室で某機器が当時の助教MRの誤操作により爆発し、他の複数の機器も巻き込んで大規模爆発が起こり、MRと学部生1人が死亡した。■大学の調査報告書では、当該研究室において某機器の日常及び定期点検管理を資格のない学生に行わせており、標準管理手順書もなかったとされている。当初、当時の教授TSと准教授TRは、某機器のエラーであると主張していたが後に撤回し、両者とも謝罪し退職している。


 同日、同大学女子学部生(A)とTRの援助交際動画がインターネット上の動画サイトに流出した。また、同学生の個人情報が流出した。数日後には流出した動画が書き込まれたCDが同学生の実家や親戚の家に郵送された。


 η月θ日、TS、TR、MRの詳細な個人情報がインターネット上の匿名掲示板に流出した。また数日後にはMRの普段の勤務の様子と、当日の誤操作の様子が何者かによって公開された。


 η月ι日未明、TR宅に何者かが侵入し、TRの妻と子に重傷を負わせた。妻は鋭利な刃物で両腕が切断され、子は両脚が切断された。また両者とも両目を失明した。異常に気付いた近所の住民が通報し救急車で搬送されて両者とも一命をとりとめた。証言には、目が覚めたら動くことも声を出すこともできず抵抗できなかった、このときに聞き覚えのない外国語を男性2人が話している声が聞こえた、とある。現場にはг国で流通している靴の跡が残されており、г国人に特徴的な扉の開け方がなされていた。切断された部位は見つかっていない。


 γ月κ日、MRの夫と子が神経毒による麻痺で中毒死しているのが、無断欠勤を不審に思ったMRの夫の同僚とアパートの管理人によって発見された。食卓の上には朝食がそのまま残っており、MRの夫は廊下にうつ伏せに倒れていた。その後捜査により、MRの自宅のカレーに魚WWWのVVVが混入していたことが分かった。MR宅付近は人通りが多く、数日前からMR宅前で肩に大きな傷のある不審な女性の姿が見かけられたが、特定には至っていない。現場には、ж国の北方で使われる方言で料理のレシピ(カレーではない、未公表)が書かれたメモが残されていた。



 動画や個人情報が極めて詳細であったことから、警察は容易にこれらを知りえる人物かつ強い恨みを持つ人物として大学関係者約???人に捜査の手を広げたが、詳細な情報は得られていないとされている。


 援助交際動画が投稿されたタイミングから爆発も何者かの故意によるものとの見方もあったが、その後の調査で否定されている。なお、TSとTRは某機器近くにカメラを設置した覚えはないとして、管理不足と爆発に関連はないと主張していたが後に撤回している。


 また、情報流出はいずれもTorや他のシステムを用いて極めて高度に匿名化されていること、動画や個人情報を入手した方法が専門的であったされていること、TRの妻と子に対する傷害行為は医学的知識を必要とすることなどから複数犯による犯行が疑われている。個々人に恨みを持つ人物は多数いたが、いずれもアリバイが証明されており、それぞれの関連は不明である。さらに現場には証拠がほとんど残されていないことから、プロによる組織的な犯行であるとの見方もある。


 公表する予定であった研究成果が対立している研究チームやテロ組織に不都合だったという記事が週刊\\に掲載されたが、研究対象と根拠に乏しいことから現在では否定されている。



  関連情報

 η月λ日未明、TSの妻と子が遺書を残してオートロックマンションの自宅から失踪した。監視カメラにも姿は映っており、自宅の窓と扉は全て施錠されており、遺書も自宅のPCとプリンタで作成されたものであったため、事件性はないと判断されている。


 γ月未明、Aは自宅から失踪しており、その後の消息は不明である。最後に目撃されたのは近所のコインパーキングの監視カメラに映っていた姿であった。その直後から、Aに近似した女優が出演したアダルト動画がインターネット上に公開され始めたが本人とであるかどうかは明確にされていない。


 翌年μ月、某港にTS、TRの遺書が置かれているのを地元の漁港関係者が発見した。TS、TRとも最後に目撃されたのは前日の昼で、それぞれコンビニエンスストア、コインパーキングの監視カメラに映っていた姿である。入水自殺が疑われ付近の捜索が行われたが、海流の速い場所であったことから遺体は未だに見つかっておらず、消息は不明である。


 『△大線源盗難事件』の個人情報流出には本手法と同様の手口が使用されていると情報学者のXYは自身のブログ及び著書で考察している。





 『▼会社連続殺傷事件』


 ▼会社連続殺傷事件とは、ν年ξ月からο月にかけて某県で起こった連続殺傷事件である。■大▲研究室殺傷事件を模倣した劇場型犯罪として知られているが複数人の犯行が露呈しているなど一部異なる。


  概要

 ν年ξ月、▼会社に勤めるINとBM、NE、社員2名の不倫関係を暴露する内容が▼会社、5人の自宅、実家、配偶者の職場と実家に郵送された。


 ξ月π日夜、BMの子が刺殺されているのが某川の河川敷で発見された。犬と散歩中の発見者はマネキンが捨ててあると思ったが、犬があまりにも吠えるので近づいてみたという。その後、監視カメラの映像と犯行に使われた車が証拠となり、INの妻が殺人、死体遺棄容疑で逮捕された。INの妻は一貫して無罪を主張していた。


 ρ月σ日夜、NEの夫が血まみれになって倒れているのを同アパートの住人が発見した。救急車を呼び、NE宅を訪れたときに、包丁を持って放心していたNEが発見された。そのまま抵抗なく警察に逮捕されたが、精神異常であることが認定され、精神医療施設に収容された。NEは直前に流産しており、それが原因で離婚協議中であった。


 τ月υ日、▼会社の製品の安全性に関する不正について日本を含む世界中の主要なマスコミ及び管轄の行政に内部告発が行われた。さらに同日、▼会社に勤める社員の個人情報がインターネット上の匿名掲示板に流出した。


 τ月φ日深夜、INの同僚であるHH及び妻子が自宅で首を切り落とされて殺害されているのがいつまでもカーテンが開かず不審に思った近隣の住人によって発見された。手口はи国における伝統的な手法であり、紐のようなもので動きを制限した痕跡が遺体から発見されている。HH宅は住宅街を通り抜けたやや奥地にあるが、不審者の姿を見たという証言は得られていない。


 τ月χ日、第三者調査委員会によって▼会社におけるデータ捏造及び不正が認定され、▼会社は業務停止処分を受けた。▼会社は事実を認め謝罪会見を開いた(▼会社データ捏造事件を参照)。


 ο月ψ日、某花火大会直後に、近くの雑木林でBMが射殺されているのが地元の老人によって発見された。BMの脳内から摘出された弾丸の線条痕は特殊な物であり、使用された銃の特定はされていない。BMのスマートフォン内のSMS上にINとその場で会うやり取りが残っていた。


 ο月ω日昼、BMとのやりとりについて任意同行するためにINの実家を訪ねた警官に、INが錯乱して実母を刺している所を発見された(この時すでに明らかに死亡していたため救急車は出動していない)。INが警官2名の制止を聞かず、奇声を上げて包丁を振り回している様子は近隣住民によって撮影され、動画投稿サイトにアップロードされた。警官は再三の警告の後、通行人の安全のために発砲し、これがINの腹部を直撃した。INは救急車で病院に搬送され、一時意識不明であったが後に回復し、殺人罪で逮捕された。また、手術時にINが麻薬RRR中毒であったことが判明した。後の捜査でRRRとともに薬物QQQがINの自宅の果実酒から検出され、INは大麻取締法で書類送検された。これはл国で流通しているRRRの成分と類似しており、л国で乱用されている手法と同一であった。事件数日前から背の高い黒人男性が付近を歩いていたのが目撃されている。なおINは自身でRRRを入手していないと主張しており、BMとのやり取りも記憶にないと説明している。


 ο月同日、▼会社の倒産が決定した。



 本事件は告発された不正が内部に紙媒体等で隠匿されていたものであったこと、その前に詳細な不倫情報が関係者に伝達されていたことから、内部関係者の強い関与が疑われている。しかし告発内容には数ヶ所誤りがあったこと、また不正は一部の社員しか知らなかったことから何者かが何らかの手段で情報を入手したという見解もある。


 また、▼会社はグローバルカンパニーの関連会社でもあり、犯行の手口や使われた凶器、RRR、目撃者証言から国際的な犯行組織によるものである線でも捜査されている。情報流出の手法がTorや複数のシステムを用いた最新の方法で匿名化されており、証拠が僅かにしか見つかっていないことも裏付けとなっている。


 IN、INの妻、NEはいずれも組織的な犯行であることを否定していた。



  関連情報

 週刊##によると、INの不倫相手とされる残りの2人はそれぞれ別件で死亡している(『キノコVVV及びWWW中毒事件』、『ν年微生物YYY流行』、『ν年微生物YYY流行心中事件』をそれぞれ参照)。これも本事件の一部であるという説もあるが警察はこれを否定している。


 事件中、台風!!号によってこの地域は甚大な被害を受けており、死亡者の中に▼会社社員一家も含まれている。また、浸水による家屋の被害も多数の関係者が受けており、これが調査の遅れを招いた一因となっている。


 この一連の出来事は▼会社製品被害者による呪いであるという視点でSAはシリーズホラー小説『纏蝟集』を執筆した。


 この事件と『■大▲研究室連続殺傷事件』は不貞行為が端を発しているように見え(実際はそれ以前から準備されていたことは状況から明らかである)、手口や痕跡に類似点が多くあるが、接点が見つからないことから本事件は模倣犯あるいは国際的なプロ組織によるものによるものとされている。





 インターネット百科事典を抜粋するとこのようになっている。個人のサイトにはより詳細で様々な考察があるが、核心を突いたものは一つもない。分かるわけがない。捜査情報の全てが記されているわけではないから、念のため警察のPCもハッキングしたが問題なかった。あれから平和そのものだ。


 それに、前の年齢も無事越えた。このときは豪華な夕食を作って、沙那恵さんに「何かあったの?」と聞かれた。気まぐれでこういうことをするときもあるから、同じように答えても何もまずいことがあるわけではなかったが。ただ、私のことをよく見てくれているのが嬉しかった。


 これらの計画も、標的も、保育園に上がる前には既に漠然と立ててあった。小学校の間も、中学校の間も、何が使えるか情報を集め、物を作製する道具を作製し、試行錯誤して改良し、あらゆる場所に隠した。隠し場所も苦労した。体力、筋力もつけた。勿論それだけをしていては人生が無駄になるからそれなりに楽しいこともした。要は思考の切り替えと時間の分配を的確に行うことが重要だった。高校生になれば事を運びやすくなった。それからは本格的に情報を集めて、計画を立て直して、まあ、上手く行ったわけだ。


 特にどうやって捜査や現場検証が行われるのか、法律はどうなっているのか、心理的にどういう行動をとるとどうなるのかは重視した。意図しない痕跡を残さず、情報を攪乱した結果、上手いこと狙い通り捜査の目の外に置かれた。警察には少し申し訳ないが、それも仕事だと思ってほしい。どちらにしろ給料は出ているわけだ。一言言えるなら、他の未解決事件にリソースを割いた方がよいのではないだろうかと言いたい。


 だから逆に防犯には相当詳しくなって、家族を守るのに役立っている。尾行もすぐに気づいて、処理できる。



 ちゃんーと みてるよ♪



 何も脅かすものはない。もうない。努力の成果だ。

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