第百三十話 襲来する恐怖の化身 / 銀河捕食大怪獣ユーデアーラ・ディストピア登場
「なんでだよ!!」
周人監視の中、俺はマイクが入ったまま叫んだ。
「残り90日だったはずだろ!?」
スカイルに問い詰める。場は静まりかえったままだった。泣き出す者も居る。俺達の会話が真実であると、その口調や声色から察してしまったのだろう。だがそこに省みる時間は、残念ながら無かった。出来る事ならばもっと暖かい言葉をかけて励ましてやりたい、希望はあると叫びたい。だが今は、とにかく事実を確認する必要があった。
「正確に言おう。私は敵を甘く見ていた。」
「と、言うと?」
俺は精神を落ち着けながら尋ねた。
「私が観測した結果、次々と星々が消えている事が分かった。」
「それは聞いた。だから想定外の巨大さである可能性があるって話だったよな。」
「然り。そこで私は想定した。この星と同等の物体が、想定出来る速度(※注記:現実で言う光速)で迫っているとしたら、と。」
「う、うん。」
「だが現実は異なっていた。先程、突如この星全域から観測出来る全ての星が消失した。」
「……………。」
それは、つまり。
「何も観測出来なくなった。それは、つまり、何かが全ての星を呑み込んだ、という可能性を示唆している。そしてそれが意味するところは、想像を絶する程の巨大な何かが、迫っているという事実だ。しかも、一瞬で、夜空に輝く天体を全て飲み込むような、何かが。故にもう時間は無いと判断した。今にも、今にもこの星が飲み込まれる、そんな可能性すら存在すると。」
俺は絶句した。
そんな事が、有り得るのか。
魔界からは星が見えない。それが仇となったのか。
俺はじっとスカイルの方を見ていたが、場が凍りついたのが見なくてもよく分かる。肌で感じる事が出来た。人々の絶望もまた同様に。
「魔王様!!」
再びジュゼが叫んだ。先程よりも恐怖に満ちた声色で。
「……なんだ。」
しばしの間を置いてから、意を決して俺は聞き返した。
「自然界より通信が入りました!!巨大な何かが空に浮かんでいると!!」
「……つないで、くれ。」
俺は呆然としながら言った。その場全員に聞こえるように、俺は通信の音量をMAXにした。
『そ、空に、空に巨大な、巨大な目が!!』
エスカージャ殿の声と共に、巨大な、そして醜悪な笑い声が場に響いた。
『フヒェヒェヒェ、ヒェーヒェヒェヒェヒェ!!』
聞き覚えのある、気色の悪い声だった。
「ユート・デスピリア……。」
笑い声を聞いて、人々がパニックに陥った。
「サリア!!」
「ええ!!」
[Barrier!!][Radiant!!]
サリアがその場をバリアで包んだ。暖かなオーラが人々を包み、見るからに安心感を与えてくれる。それ故か、人々も少し落ち着きを取り戻した。
「行ってくる!!」
中継先へという意味だろう。
「私も同行する。」
スカイルの言葉に俺は頷いて言った。
「頼む!!ーーー皆さん、落ち着いて下さい!!今バリアを貼ります!!最悪のケースではありますが、それでも被害を抑えるため、今は場に止まって下さい!!」
俺の声が届いているかは分からない。中継先の映像はパニック映画さながらという様子であった。
「急いでくれ。」
「OK。」
「分かった。」
俺がこそりと呟くと、サリアとスカイルは答え、そして転移魔法で各地へ飛んでいった。
「俺達は自然界へ行くぞ。」
俺の言葉に、ジュゼ、そして事態を聞きつけてやってきたイレントとハイが肯く。
「トンスケ。」
「分かっておりますぞ。皆さん!!ここに留まる限りは安全ですぞ!!どうか落ち着いて!!」
トンスケを呼んだ瞬間、彼はすぐに俺が求めていた行動を取ってくれた。頼もしい。
俺はディメンジョンコンキュラーバロットレットを起動し、エスカージャ殿の元へと向かった。
案内されたイージス王国の城の監視塔で、俺達は空を見上げた。
時間にして昼間のはずであるが、空は何かに覆われて真っ黒になっていた。その黒の中に、巨大な目が浮かんでいた。数は三つ。だがその内二つ、人間でいうところの通常の目は、地平線にちらりとその上蓋のほんの一欠片を姿を写すだけであった。ちらりと言ってもその大きさたるや計算出来るものではない。夜空に浮かぶ月よりも、大地を照らす太陽よりも、それらは巨大で、山々を軽く飲み込むような大きさを有していた。そして残りの一つ。空にはっきりと見える、二つの瞳の間に浮かぶ巨大な縦長の瞳の中には、人の形のような何かがあった。あのしつこい、醜悪極まりない、似非勇者のクソ野郎の姿が。漆黒の鎧に身を纏っており、その下半身は既に崩れ、巨大な骨でその瞳と接続されていた。鎧姿故に顔こそ見えないが、その全身から放たれる禍々しい意思を表すオーラが、奴である事を示していた。
「フヒェーーーーーーーーーーッヒェッヒェッヒェェェェェェェ!!!!!!!!!!!」
大地に轟くその不気味な笑い声。それがここまでの考えに対する答え合わせであった。
「見たかこの姿を!!」
見えない。正確には見切れてて全貌が見えない。
「私が!!私がここまで育てたのだ!!私の溢れる勇気を注ぎ込んだ結果、この生物は急速な進化を遂げた。そして星々を喰らい、魔力を喰らい、成長する事で、これほどの巨体を得る事が出来た!!ああ溢れる!!力が!!力が漲る!!この身体こそ!!勇者の身体!!この力こそ!!勇者の力!!」
「そんなわけが……あるか!!」
奴を育てたものがあるとすれば、それは奴が奴である限り満たされる事の無い、虚栄心であろう。例えどのような方法であっても自分を認めさせようとする、歪みに歪んだ自己顕示欲。常識の埒外に居る醜悪な心。それがデアーラの母体とやらと化学反応でも起こしたのだろうか。
「何とでも言うがいい!!私はここにこうして居るのだ!!この私、わた、わ、ワタタタタタタタタタtatatatatatat」
何かバグを起こしたかのように、巨大なユートの体がカクンカクンと突然曲がり出した。
だが俺の頭の中は、その奇怪な動きよりも、別の事に支配されていた。先程笑い声を上げたあの口。鎧の隙間から見えたその口の中には、あるものが巨大が故に見えていた。
牙が。
あれは…まさか……。
俺が目を疑っている横で、ハイが大きな目をパチクリと何度も瞬きをしながら、愕然とした声で言った。
「デア・ザテ・アーラ……。」
「なに、それ。」
「宇宙に伝わる単語。私の故郷を呑み込んだもの。デアーラという言葉の語源。死を喰らう者。あれは……あれは、私の故郷を呑み込んだものに似ています。私の故郷を呑み込んだ、母体です。ですが、ですが、あれは……巨大すぎます。ここまでのサイズでは、なかった、はずなのです。」
「あ、あれは、あれは通常、存在出来る生物の巨大さを超えています!!ま、魔力でさえ、魔力があったとしてもとても維持出来るような、それではありません……!!」
イレントが腰を抜かしながら言った。
その時、
「フヒェ、ヒェ、ヒェヒェヒェヒェ!!!!!!!!!!!!」
再びユートが体を起こし、不気味な笑い声を上げた。
「当然だ!!当然だ!!私は勇者である!!」「ワタシハ全テ喰ラウ!!」
別の声がユートの口から排出された。
「私は奇跡の存在だ!!」「ワタシハコノ男ト一ツトナリ得タ、彼ノ者ノ心ヲ、深キ闇ヲ!!」
デアーラ、いや、デア・ザテ・アーラ、母体の意志だろうか。ユートの意思とは別の何かが、ユートの口から言葉を発していた。
「私に恐怖せよ!!」「闇ハ美味イ!!闇二包マレ恐怖シタ命ノ灯火ガ消エル瞬間モマタ美味ナリ!!」
いずれにせよ、
「私こそが勇者!!」「ワタシコソガ全テノゴミヲ喰ラウ者!!」
ーーーロクな宣言ではなかった。
「「我はユーデアーラ・ディストピア!!全ての物質に死の楽園を齎すものなり!!」」
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