第七十五話 あってよかったチート武器
方向性は決めよう。まずイヌーンドの依頼は受ける。魚族の住処が足りないのは間違いない。それを何とかするのは魔王たる俺の義務である。問題はそれをどうやって成すかという点である。
元の世界だったら、誰かが損をしなければ解決出来ないだろう。そしてその泥を被る、それが政治家の役目という所だ。しかし、ここは魔法のある世界。そして俺の手元には、チートとさえ言える武器がある。それを使えば何とかなるのではないか。そうやって考えていく内に、俺の脳裏には一つの閃きが去来した。簡単かどうかでいうと難しそうであるが、もしかしたら何とかなるかもしれない。
「どうするのですか?」
その様子を見ていたジュゼが口を挟んだ。俺はその閃きを口にした。
「…無理矢理場所を作る。」
「…はい?」
ジュゼが思わず聞き返した。まぁそういう反応になるだろう。俺だって出来るかどうかについては大変自信が無い。だが出来そうな気はしている。
それは、ディメンジョンコンキュラーバロットレットを使う方法だ。俺がそれを取り出すと、ジュゼは察した様に声を上げた。
「あぁ、なるほど。空間を歪めて海なり大地なりを作ってそこを住処にして頂く、という事ですか。」
「うむ。だが問題は、空間を歪めただけじゃ単に不思議空間が出来るだけって事だ。」
以前機能を試していた時の事を思い出して俺は言った。
「不思議空間、ですか。」
「試してみるか。」
俺はディメンジョンコンキュラーバロットレットを取り出した。
[空間!!]
[Vote!!][Dimension-Conquerer-Ballot-ler!!]
[Calling!!][天・地・自・在!!ディ・メ・ン・ジョ・ン・コンキュラー!!]
[降臨!!]
そして[拡大]のアイコンをタップした。
ヘルマスターワンドが叫ぶ。
[空・間・拡・大!!ディメンジョンマグニフィー!!]
そして俺は水中に杖を突き立てた。すると、そこを中心に黒い円が広がり、そこに丸い空間が広がった。穴が空いたわけではない。水は穴に入る寸前に、それと円の中央に対し点対称の位置へ転移しているのか、穴の中には入らない。今までの空間の連なりはそのままに、まるっきり別の空間がそこに拡張・追加されているという感じである。何というか、不思議な空間、そうとしか形容しがたいものであった。
「ここに物は?」
ジュゼの問いに、俺は石を投げた。コロンコロンと音を立てて黒い空間に転がった。入ろうとすれば入れる。ただし今までの空間と地続きではない。
「ふむ、一応空間として使えるものの、住居とするには適さないという事ですか。維持は出来るのでしょうか?」
「前に試した時は大丈夫だったが、やってみよう。」
俺はディメンジョンコンキュラーバロットレットを取り出した。空間は消えない。そこに在り続ける。
「消す時はこれで消さないとダメだった。」
俺はこれという所で杖を指差した。空間消滅の機能でなければ、この空間の消去は出来ない。逆に言うと、俺が消さない限りこの空間は残り続けるという事だ。ジュゼは指を顎に当て考え込んだ。
「なるほど。使えそうではありますが…。問題はここには何もないという事ですね。水を送り込めば生活出来そうですが…、住居として使うには、地面が無いといけません。微生物などが住む場所がなければ、結果的にそこで生物達が生きる事が出来ません。」
「地面…大地か。」
大地の力でも借りられればいいのだが、残念ながらヘルマスターワンドの仕様上難しそうである。ディメンジョンコンキュラーの場合、属性の力で空間を操作する。逆にいうと属性の力をそれに使い切ってしまうため、それ以上の属性効果を発揮する事が難しいのだ。
属性…。
「もしかして。」
俺はデュアルボウトリガーを取り出して、ファーストスロットにディメンジョンコンキュラーバロットレット、セカンドスロットにマンティスレイプロトバロットレットを挿入した。
[ディメンジョンコンキュラー!!][マンティスレイ!!][Hey!!Let's Say!!Calling!!]
[天・地・自・在!!ディ・メ・ン・ジョ・ン・コンキュラー!!]
[Featuring!!]
[キラキラスパスパ悪切り裂く光!!光芒!!一閃!!マンティスレイ!!]
[[降臨!!]]
二つの鎧を身に纏った俺は、空間拡大のアイコンをタップした。
[空・間・拡・大!!ディメンジョンマグニフィー!!][デイブレイク!!]
すると先程と同様に円の様な空間が出来た。先程と異なるのは、その中が光で満たされているという点だ。黒い空間では無く白い空間。眩しい位の光を放つ空間がそこには出来上がっていた。
「出来た!!」
俺が試したかったのは、空間制御の能力に、セカンドスロットのバロットレットの能力を付与できるかという点であった。そしてそれは実現出来た。ジュゼにも理解出来たようで、頷きながら彼女はいった。
「つまり、空間に属性を付与する事が出来るという事ですか。」
「ああ。だからこれを使えば、生み出した空間に大地を加える事が出来るかもしれん。」
大地を加えるという表現が正しいかはわからないが、つまるところ、湾曲して生み出した空間を、元の空間と地続きに出来るかもしれないという事だ。そうでなくとも、何も無い空間に大地を生み出す事は出来るかもしれない。ヘルマスターワンド単体では大地の生成までは出来ないから、何とも言えない、想像に過ぎないが。
「なる、ほど。…その杖は本当に便利ですね。」
全くである。大変ありがたい。平々凡々な俺に唯一与えられたチート能力だ。ああ一応、これを使いこなす魔力もあったか。だがその魔力を俺が活用できないから置いておく。重要なのは、この力があれば、本来解決が難しい問題、誰かしら涙を呑む羽目になるであろうこうした案件を、互いに損する事なく解決出来るという点だ。元の世界なら間違いなく胃を痛めていただろう。
さて、そうなると次の問題は、大地の力をどうやって得るかという点になる。
「大地…オーク達豚族の所の神に力を借りねばなりませんね。」
「大地の聖域の場所は?」
「大凡分かっています。イヌーンド様にお話ししてから向かうことにしましょう。」
俺は肯くと、二人で再び海の中へと潜っていった。
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