第六十四話 正しいと思う道を行け
迷うまでもなかった。俺は死にたくない。例え知らず知らずの内に誰かを傷つけていようとも。俺は生きていたい。生き続けたい。故に答えは一つしか無い。
「覚悟するしかないだろ。覚悟っていうか自覚だよな。誰かを傷つけ、それでも生きている。それを自覚しろってこったろ。月並みだが、罪を背負って生きてやる。そして、罪を償える程の、出来る限りの善行を為してやるさ。…それもまた偽善と言われる事かもしれないけどな。」
誰かの為にやろうとした事が本当にその人の為になるかどうかなんて分からない。結局は全部偽善だ。自分が「それが正しい」と思うから行動する、ただそれだけなのだ。だがそれの何が悪い。結果として人の為にならなかったとしても、だからと言って何もしない理由になるか?俺は否だと思う。それは所詮結果論だ。凡ゆる行動においてそんな事を考えていたら、雁字搦めで何も出来ない。ーーーそれが罪だと言うなら無視してやる。傲慢だと言うならああそうだと開き直ってやる。俺は俺が正しいと思う事をする。
「YEEEEEEEES!!わかるねぇ話が!!」
コスマーロがバンバンと肩を叩いてきた。骨が肩にぶつかって痛い。
「そうさ!!そうやって理解し受け入れることが闇の魔力との、そして心と罪との正しい向き合い方ってもんさ。開き直って殺しまくるでもなく、理解しすぎて何の罪も犯さないようにビクビク生きるでもない。自分が生きている事で発生する罪を自覚し、それでも生きていくンDA!!って強く思う事が重要なんだ。でないと闇の魔力に飲み込まれて、倫理観もクソもないような奴になっちまう。例の「混沌の魔界」の連中がそうさ。ありゃ要するに「どうせ一度死んだ身、後は自由に生きてやる!!」って開き直った連中だからNA。」
「縛られたくない、自由に生きる、それが魔物の在り方だ、ってか。」
「Yeah. まぁ結局ユートとやらに縛られてるんだけどNA!!HAHAHA!!」
あまり笑えん。ユートに操られた人々を散々見てきたからだ。
「おっと、不謹慎ネタはお嫌いかい。ま、色々とっ散らかったが、ようはアンタが魔王として相応しい心の強さ、つまり自分が罪を背負っていてもちゃんと真っ直ぐ居られるかどうかを知りたかったわけさ。」
コスマーロが指をパチリと弾くと、俺の肉体が空から降ってきた。
「返すZE!!次来る時は気をつけNA!!アレはマジで生者にゃ毒だからNA!!」
アレとは入り口の霧の話のようだ。次からは気をつけよう。…次来る時どうしろというんだろう。
ともあれまずは俺の体だ。俺は自分の体に手を伸ばした。まるで服を着るように、俺の魂が体へと入り込んでいき、やがて体と魂が溶け合っていく。
全てが終わった時、重力を感じた。大地に引かれる感覚。そして手を動かす。四肢に肉体の感覚が戻ってきた。さっきまでとそこまで大きくは変わらないが、指が掌に触れる感覚もちゃんとある。
「ふぅ。」
「死霊族の気持ち、少しはわかったかい?」
「ああ、まぁ、縛られたく無いって気持ちはわかったし、なんで死霊族で居続けるのかってのもわかった。その辺は踏まえてやっていくよ。」
元々魔界のシステムを変えて少し自由を増やそうという予定はあった。ここにあるような建物、…キャッキャウフフはともかく、娯楽施設の充実も考えていかねばなるまい。
「コロシアムみたいなのも作ろうと思ってたし。」
「いいねぇ!!流石にコロシアムまではここには作れなかったからNA!!魔界のシステムを変えないとどうにもならねぇからNA!!ったく昔の魔王様は、秩序だの平和だのつまんねぇ事ばっか言いやがるから困るZE!!」
それはそれで必要だから仕方ないだろう。
「アンタは話の分かる魔王様だな!!こいつをやるZE!!」
そう言って彼はバロットレットを差し出してきた。「ハデスナイトメアバロットレット」と書かれた投票用紙風の機械を受け取った。火と光と闇、三つの属性の力を受け取った事になる。
「アンタなら信用出来る。他の連中にも伝えとくZE!!次回の投票はお前さんがいいってNA!!元のエレグの悪評はあるだろうからそこまで期待はすんなYO!!」
「ありがとう。使わせて貰うよ。」
俺は頭を下げた。
と、"元エレグ"という表現に引っ掛かった。さっきの魂の形の話もそうだが、俺が入れ替わっているという事はお見通しなんだな。
「心が読めるからな!!余裕さ!!どんな隠したい過去でも全部お見通しだZE?例えばティアの年齢とかな!!HAHAHA!!」
ティア、その名前を聞いて思い出した。闇の聖域に入った時に酷い事があって記憶を消したとか何とか。あれは入り口の霧で死にかけたとかだろうか。
「ああそれ?いや、アイツは俺が招待したから普通に入れたYO。アイツが忘れたってのはその後の世間話の時の事さ。俺は誰の心も見通せるだろ?だからアイツの年齢言い当ててやったのSA!!そしたらアイツ、「思い出させないでくれぇ!!」とか言って自分の記憶を消しやがったのSA!!自分の年齢忘れて自分を誤魔化してるってわけだNA!!」
悪夢とか脅しておいてそれか…。俺はてっきり死にかけたのがそれかと思っていたが。
「まぁそれもあるんだろうけど、アイツは全くもって長生きしてるからNA!!アイツを何がそこまで生かし続けるYARA。死への恐怖か、はたまた義務感か。それを哀れむべきか、尊敬すべきか。難しいもんだNA!!」
言うとコスマーロは鎌のターンテーブルをギュインギュインと鳴らしながら歌い出した。
「♪歳を忘れて時を流れて、生き続けるのは何の為? 世界の為?それとも自分の為?自分にも分からず生き続ける、それもまた罪さYEAH!!」
「まぁアイツも色々大変なんだなぁ。」
「そりゃ数万年生きていりゃあNA!!具体的な歳は伏せといてやるけどSA!!MA、年寄りは敬ってやれYO!!」
「まぁそうしよう。」
そんな話をしていると、神殿の入り口からガタガタと音がし始めた。
「N?」
入ってくるなと彼が言ったにも関わらず音がするというのは何事かと訝しむと、突然武器を持った連中が会談会場…という程の場所ではなく、なんというかディスコの一室みたいな場所だが、そこに入り込んできた。
「Who?」
コスマーロの問いかけに、その集団は答えた。
「俺たちゃ「混沌の魔界」のもんだ。コスマーロ様にゃ悪いが、魔界のためだ、そこの魔王にゃ死んでもらうぜ!!」
俺はその単語を聞いて顔をしかめた。
「うわぁ出た。」
俺は思わずうんざりといった声を上げた。またこいつらか。
「お前らユートも捕まったんだし諦めろよ。」
そう言うと彼らは激昂し言った。
「そう簡単に諦められるか!!何者にも縛られない世界、それがあるべき魔界だ!!」
「その辺はもう少し考えるからさぁ。」
「あ、そう?じゃあ止めとく?」
十人くらいのうちの一人が俺の言葉を聞いて剣を下ろした。だが残りの九人がそれを制した。
「バカ!!こんなのに騙されるな!!」
「こいつは嘘はついてないZE!!」
「でもやっぱり魔王自体いない方が自由だから殺す!!」
「なんか開き直りじゃないか?」
「頭が腐ってるから仕方ねぇんだYO!!」
お前の管轄というか何と言うか、信徒みたいなもんだろうに、酷い言い草である。
「俺に剣を向けた時点で信徒じゃねぇからな!!さ、ちょうど良い、俺の渡したアレのお披露目といこうじゃないか!!Come on!!」
「そうだな、刮目せよ!!」
ある意味ちょうど良いタイミングだ。これを使うとしよう。俺はコスマーロから渡されたバロットレットを折りたたんだ。
[悪夢!!]
バロットレットが叫び、黒い闇を吹き出した。
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