第三十八話 彷徨う魔王

 未開拓領域とは、魔界の六割を占めるその名の通りの未開拓地であり、魔力暴走現象が多発している場所である。以前ジュゼからそう説明を受けた。そして魔力暴走現象とは、多量の魔力が充満している事により、それらが互いに反応し合う現象であると。火の魔力ならどうなるか。火柱が立ち、マグマが溢れる。


 今眼前に広がっている光景はまさにそれであった。


 焼け野原。草木は無く、その代わりに轟々と燃え盛る炎。至るところで爆発が起きている。それはまるで赤い森のようであった。ただし葉っぱが炎で木が火柱であったが。


 今かけられた魔法がなければ、俺は今すぐにでも燃え上がり、死んでいるだろう。今まで開拓が進まなかった理由も肯けるというものである。こんな所入りたくもない。口を開けば喉も焼けそうというものである。


 そんな文字通りの燃える空を、何かが横切った。あれはドラゴン、火竜のようであった。赤い鱗に覆われた巨体が空を舞っていた。羽ばたきが赤い森を動かし、そしてその風で炎が撒き散らされ、更に魔力の反応が激しくなる。それがドラゴンの数だけ巻き起こる。悪循環である。この業火に耐えられる火竜だからいいのだろうが、他の生物に大してはあまりに酷な環境であった。面倒なことに、この魔法をかけていると風の勢いも一定量削がれるので、風を感じることも出来ない。以前言った通り体感では暑くないのだが、視覚が熱で侵されているので、何となく熱を感じてしまうし、そのせいで風も生暖かく感じる。勢いが削がれ緩やかになっていることもそれを助長していた。


「辛い。」


 俺はポツリと呟いた。どこに行けば良いのかも分からないまま、この空間を彷徨い続けるのは地獄に等しかった。未開拓領域の外はこのような事態にはなっていないはずである。ということは、魔力が少ないということで、魔力が少ない方に行けばそこは開拓済みの領域なのではないかとも思うのだが、どこなら魔力が少ないのか?それを特定する術がなかった。最近になって魔力の量を何と無く感じ取れるようにはなっていたが、全体的に多量すぎて、差が感じ取れなかったのだ。


 更に問題なのは食料である。こんな火しかない場所に食べるもの等皆無にしか見えなかった。ロケット自体は外壁とあの後展開したウォーターシールドフィニッシュで耐え切れるだろうが、中にいる二人と俺自信の食欲を抑え込むだけの何かがここにはありそうになかった。


 早々に脱出せねばなるまい。だがどうやってそれを成すか。


 焦り始めた俺の頭に、一つの考えが横切った。先程のドラゴンにインタビューでも出来ないだろうかという考えである。彼らに知性があるかどうかは分からないが、とりあえず聞いてみるだけ聞いてみよう。ダメなら逃げよう。そう思いながら俺は背中の翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がった。


「あ。」


 そういえば最近空を飛べるようになったのだ。ドラゴンに聞かなくてもいいじゃないか。そのまま外に出たりすればいいじゃないか。Oh Nice Idea!!そう思いながら意気揚々と天へと昇り、周りを眺めた。



 ダメだった。



 この領域全体を巨大な火柱が覆っていた。どっちが弱いとかではなく、四方を天まで伸びる火柱が遮っていたのだ。どうやらこれが自然界における火山の元になっているようだ。


 …これをどうやって超えればいいんだ。無理だろう。俺は絶望しながら先程のドラゴンを追った。せめて何かの情報が得られることを祈りながら。



 だがその期待は無残に、或いは予想通り、裏切られる事になる。「もし、そこのドラゴンさん。」と俺が声をかけた瞬間、そのドラゴンは振り返り、ゴォォォォォォォォッ!!という轟音と共に炎を吐き出し、俺に浴びせかけたのである。

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