第三十九話 ドラゴンを捕まえろ

「危ねぇ!!」


 [Mode Shield!!][ウォーターシールド!!]


 俺はとっさにシールドモードに切り替えて炎を防いだ。盾が放つ水の壁が、一千度を超える等と聞かされた事のある火竜の炎を遮る。辛うじて間に合い、その熱線のような炎は盾に遮った後、俺の横を通り過ぎ、俺が吸う筈だった空気を高熱の篭ったそれへと変化させた。直撃していた場合、流石に魔法では防ぎ切れず、丸こげの俺が出来ていただろう。俺はゾッとしながら言った。


「話を聞いてくれよ!!」


 泣きたくなる気持ちを抑えながら叫ぶが、


「ここで生きてるハエなんて珍しいドラ、我が神の贄となるが良いドラ。」


 と会話にならない返答を貰い、襲いかかってきた。図体はデカくシュッとした顔付きのいかにもなドラゴンという風態だと言うのに、なんてゆるキャラみたいな語尾なんだ。喋る事は出来るようだが、話す気はさらさらないと言う事か。ならば喋りたくさせてやろう。


「仕方ない。刮目せよ!!」


 [Calling!!][目覚めたる魔界の王!!ヘル・マス・ター!!][降臨!!]


 ヘルマスターギアを装着すると、俺は何とか自分の体を動かし空を舞いながら、相手の周りを飛び回った。


「全く騒がしいハエドラ。燃え尽きるがいいドラ。」


 炎を放つドラゴン。だがそれは空を燃やすばかりで、俺を捉える事はなかった。そういう風に俺自身の翼を操っているわけだが。ああ気持ちがいい。空を飛び風を裂く、それがこんなに気持ちがいいとは。景色が良ければもう少し感慨深かったのだろうが。今はただただ燃え盛る業火しか目に入らない。何より、景色に気を取られている暇はない。俺はロッドのパーツを放り投げて、全てをタッチパネルの左横ジョイントへと接続した。


 [Mode Rope!!]


 するとそれらのパーツは光のロープとなって風に靡くように動き始めた。俺は雷のアイコンをタップした。


 [Thunder!!]


 するとそのロープは紫の雷鳴の如く輝き始めた。俺はそれをドラゴンの周りを飛び交いながら彼の体に巻き付けた。


「ウロチョロするなドラ。」


 轟々と燃え盛る炎を吐き続けるドラゴン。どうやら俺を焼こうとするのに夢中で、自分の体に妙なロープが巻きついているのには気づかないらしい。図体がデカいのはこういう時不便だ。


「れ?腕動かんドラ?」


 気付いた時には、赤い竜麟を抑え込むかのような、紫に光る紐が巻きついていた。


「気付くのが遅いな!!」


 俺はトリガーを引いた。


 [ヘルマスター!!サンダーロープ!!]


 するとその紐は更に縮まり、ドラゴンの翼を含めた全身を圧迫し、全身に電気ショックを走らせた。


「ぐぐぐぐぐぐ、グェーッ!!痺れる!!苦しいドラァッ!!」


 苦しみもがくほどその紐が与える痺れは鋭くなっていく。やがてドラゴンはフラフラと地面へと落下していった。


 ズシーンという音と共にその巨体が燃える大地へと叩きつけられる。


 [Mode Blade!!]


 俺はブレードモードへ切り替えると、ドラゴンの顔にそれを向けながら言った。


「魔王に火を吐きかけるとは無礼な奴だな。」


「魔王!?アンタが!?知らんかったドラァ…。」


 まぁここに住んでいたら外の様子について知らないのも無理は無い。


「それはいいんだ。とりあえず話を聞いて欲しいんだが。」


「分かったドラ…。だから頼むからこの紐解いてほしいドラ…。ジュージュー言って辛いドラよ…。」


 俺は広い心でそれを許し、紐を解いてやった。



「ここから出る?考えた事もなかったから分からんドラ。」


 紐を解いた後、ここから出る方法を問いかけた俺に対し、そのドラゴンはぷっくりとした腹を膨らませながら言った。


「あー…。まぁ、そうか。仕方ないな…。」


「ここから出る奴なんていないドラ。何せここの火は最高に美味ドラ。わざわざ出なくても飯にありつけるんだから、そんな無駄なことしないドラよ。」


「火を食うのか。」


「まぁ他に生きてる生き物殆ど居ないドラからね。そーいう風に進化したドラよ。」


 軽々しく言うなぁ。だが生きていくには仕方ないんだろう。そこは一旦置いておく。


「とにかくだな、外に出たいのだ。なんか方法ないのか。」


 すると彼は自分の爪で顎をポリポリと掻きながら考えこみ、やがて言った。


「そうドラねぇ。うちの神様にお願いしてみてはどうドラか。」


「神様?」


「この地域の神様。我々の守り神ドラ。」


 そういえばさっき俺を生贄にしようとしてたな。…人間を生贄にする神様なんてロクなもんじゃない気もするが、頼れるものにはワラでも縋りたい気持ちである。俺は「じゃあ連れて行ってくれ」とお願いした。


「じゃあ乗るドラよ。」


 そう言うと彼は背中をこちらに向けて、その図体に削ぐわない小さな手で自身の背中を指差した。熱そうだが仕方ない。俺は恐る恐る彼の背中に乗り、彼の翼の羽ばたきに振り落とされないように気をつけながら、一時の空の旅を楽しむ事になった。



「ゲェー…。」


 目的地に到着後、俺は他の物には目も暮れず、ただ地面に平伏して、そこに色々な物を吐き出した。


「汚いドラ。背中でやらなかった事は認めてやるドラが…。」


「お前の背中、上下しすぎなんだよ…。」


 乗り物には強いつもりだったのだが、あまりに揺れが酷すぎた。俺の三半規管はボロボロである。


「ともあれここがうちの神様の家ドラ。奥に神様がいるドラ。んじゃここで失礼するドラ。」


「ああ…。ありがとう…。」


 俺はドラゴンの方を少しだけチラ見した後、もう少し腹の様子が治るのを待ってから立ち上がった。



 石造りの神殿がそこにはあった。まさしく洋風の神殿という感じの荘厳さに満ち溢れていた。そして入り口へ至る道にはドラゴンの像が至る所に立っていた。凛々しいその姿は神を描いたと言われると納得するような造形であった。そしてこの広い敷地の中に、人気は全くない。あったら怖いが。だがその代わりに、神殿の奥の方から何かの唸り声が響いてきた。これが神様とやらの声であろうか。


 俺はとりあえず、その神様とやらが大らかである事を期待しながら、その神殿へと入って行った。

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