第三十六話 星空の斥候 / 魔喰怪獣デアーラ登場

「thEyは私を追ッテきているのデス!!お願イデす!!hElp!!」


 その宇宙人らしき存在に乞われたが、俺達としてもアレがあの星に到達する事は避けたかった。三つ目、手足が口で翼が生えたその異形の姿は、怪獣と呼ぶに相応しかった。そして何より知性があからさまになかった。俺達を見て涎を垂らし、その全身の牙を剥いていたからだ。これが街に降り立ったらどうなるだろうか。俺は何日か前に自然界の防備を見てきた。とてもではないが太刀打ち出来るようには思えなかった。竹槍で爆撃機に立ち向かうと言う例えが例えで無く起こりかねない。


「シギャアアアアアアッ!!」


 音の無い世界のはずのこの宇宙空間で、そんな雄叫びが響いた。


「生物のEArにdIrEct届けテイルのでス!!」


 宇宙人が叫ぶ。


 俺は一応、念のため、万が一、その怪物に知性があったとしたらどうだろうかという考えが過り、攻撃の前にそれを確認せねばならないという魔王としてのちょっとした使命感が芽生えた。そこで俺は口を開き、言葉が通じるかどうかは置いておいて、とりあえず発話してみた。


「あー、ちょいとちょいと、話し合い出来ませんかね?」


 俺の問いかけに、奴はビームで答えた。ビーム!!そうビームである。手足にある口から俺目掛けてビームを放ってきたのだ。


「アブねっ!!」


 [Mode Shield!!]


 俺はとっさにシールドモードに切り替え、攻撃を防ぐ。だが防ぎきれない軌道のビームが一本、隕石の一部へと衝突し、グラリと足場が揺れた。威力は相当なものらしい。そしてビームで隕石の外側の岩部分が壊れて吹き飛び、未知の金属で出来たロケットらしきものが露わになった。どうやら隕石は元々こうした事態か大気圏突入用の外壁みたいなもんだったらしい。


『どうしました?何か分かりましたか?』


 ジュゼが通信機で連絡をしてきた。


「ああ、これは隕石じゃない。ロケットだ。そしてこいつ、なんか化物に追われているらしい。」


『化物!?』


 ティアの素っ頓狂な叫び声が通信機越しに聞こえてきた。


『それは三つ目かい!?』


「ああ。」


『手足が口みたいになってる!?』


 これ中継機能でもついてるのか?


「ああ。」


『それは魔喰怪獣デアーラ!!魔力を喰らう化物だ!!知性は無く、ただ目の前のものを食う事にしか興味が無いというどうにもならない化物だ!!何とか撃退してくれ!!』


「ちょっと待て、なんでそんなに詳しいんだ。」


 と聞こうとしたが、それより先に向こうがさらにビームを打ってきた。俺は再びシールドをかざし攻撃を防ぐ。


「ダメだ、聞いといてなんだが今は余裕がない!!サリア!!攻めは任せる!!」


「OKー!!でりゃあっ!!」


 [A-A-A-Attack]


 サリアは吼えると、その手の内にある剣を振り抜いた。


 [ホープフルブレイブ!!シャイニングスラッシュ!!]


 光が迸り、そのデアーラとやらの体を真っ二つに引き裂いた。


「ふん、雑魚ね!!」


「グ…ゲギャ…シギャアアアア!!」


 だが化物はその傷をすぐに再生させた。そして傷を負わせた者の方を向くと、再び口を開き吠えた。


「嘘!?」


「再生能力持ちか!?」


 何か対抗策は無いか。俺はこのディメンジョンコンキュラーギアの能力を調べた。杖をジロジロ見ただけであるが。すると、元々属性アイコンだったものが、[消失]、[転移]、[圧縮]などの文字へと変化している事に気がついた。そして、シールドモードでは[消失]、先程までのワンドモードでは[転移]だけが光っている事にも。


 もしかすると。俺は急いでパーツを差し替え、ブレイドモードへと変化させた。


 [Mode Blade!!]


 すると今度は[切断]の文字が光り始めた。武器のモードに合わせて機能が変化するらしい。ならば。俺は再びパーツを差し替え、上側のジョイントに縦向きに一本、その先に複数ジョイントのあるパーツを横に、そしてその両端にそれぞれパーツを装着した。


 [Mode Hammer!!]


 すると今度は[圧縮]が光り始めた。これだ。


「シギャアアアア!!」


 化物は咆哮を上げながら口から光の線を俺達に向けて放ち続けていた。サリアは[D-D-D-Defend]と剣のモードを切り替え、俺達への攻撃を無効化してくれていた。ならば俺が攻撃する番だ。俺は隕石を蹴って跳躍すると、タッチパネルの[圧縮]をタップした。


 [空・間・圧・縮!!ディメンジョンコンプレッション!!]


 ヘルマスターワンドが叫ぶ。俺はその先端を化物の頭へ振り下ろす。それが化物の頭を凹ませた瞬間、そこから魔力が迸り、そして接触している部分から順に化物の体を徐々に徐々に細く圧縮していった。


「ゲ…ギャギャ…。」


 抵抗しようと手に当たる部分の口でヘルマスターワンドを抑えようとするが、その行為は逆効果であった。そこから圧縮が始まり、手が紙切れの如く平たく均されていった。


「潰れろぉっ!!」


 俺が叫びながら、平面へと変化しつつあるそれを隕石へと叩きつける。その化物は断末魔すら上げる事なく真っ平になり、そして更に小さく、更に小さく、光の線へと化していき、やがて消えていった。


「ふ、ふぅ…終わった、か?」

 俺は一息ついた。だがそれは甘かった。今度は辺りが何か赤くなり始めた。

「よよよよよ、予定以上に隕石が加速しスギてイマす!!このままでは予定より早くAtmOsphErEに突入します!!」


 先程の一撃で隕石にぶつけたのがまずかったのだろうか。サリアが咎めるような目でこちらを見つめてきた。仕方ないだろ、あの時は夢中だったんだから。


 そんなやりとりをしている暇はない。どうしたものかと思っていると、宇宙服の人が慌て取り乱しながら言った。

「中にInしテクダさい!!生身ではdIEします!!」


 俺とサリアは彼?に無理やり手を引かれ隕石の奥、ロケットの中へと引っ張り込まれた。あの星とは即ち、魔界のある俺達の星である。


『何が起きたのですか!?』


 ジュゼからの通信が入る。忙しいな本当に。


「あー、なんだ、敵は倒したんだが、今隕石が墜落するところだ。どうしよう。」


 すると横から、宇宙服の人がその服を脱ぎながら言った。

「一応EngInEは動作しマスノで、着陸はprOblEm無く行えルと思イマす。yOU達はすぐにsEAtbEltを付ケテください。」


 その人はなんというか、絵に描いたような宇宙人だった。目が大きく肌は灰色で、手足が細長い。様はグレイである。え、マジでこんな直球の宇宙人がいるの?と訝しく思うほどであった。だが彼?はその目線には気にせず、座席とシートベルトを指してきた。


「あ、ああ。」


 俺はその言葉に従い、とりあえず座席に着こうとしたが、その前にジュゼが通信を続けてきた。


『そちらに誰か別の方がいらっしゃるのですか?』


 そのジュゼの問いに、宇宙服の人が答えた。


「これはrEcEIvErですか?私は別ノ星から逃げテキた者です。」


『あーゴメン、多分波長が合ってない。そちらの翻訳魔法の波長をx=1.35に合わせてくれるかい。』


 ティアの声が聞こえてきた。それに答えるように、宇宙人達は魔法を唱え始めた。


「rOgEr。…あーあー、これで如何でしょうか。」


 先程までの妙なイントネーションはなくなり、普通の男性の声へと変化した。


『多分大丈夫。で聞きたいんだけど、さっきのは本隊かい?』


「いえ、逃げた私を追ってきた斥候です。ですが本隊は既にこちらに向かってきていると思います。…失礼ですが、奴らについてご存知なのですか?」


「そうだティア。なんかさっきから知ってる素振り見せてるじゃないか。」


『うん…。奴らが居る事は知ってた。隠すつもりは無かったんだけど、まさかこんな時期に来るとは思っていなかったものだから。奴らは…。』


 ガゴンという音と共にその通信は遮られた。今度はなんだ。


「今のは防壁として付けた岩が外れた音です。大気圏に突入しているようです!!着陸の準備をしますので、すぐに座席について下さい!!」


 宇宙人が慌てた様子で俺達に促した。


「す、座った方がいいのよね?」


「ああ、その横のベルトも、斜めにこう、引っ掛けとけ。」


 俺のジェスチャー通りに、サリアは慣れないシートベルトを装着した。俺も「後でまた聞かせてくれ」とティアに告げて通信を切ると、座席に座りシートベルトを付けた。


「あ、あのさ。これで星に衝突して大陸吹っ飛ぶとかそういう事ないよね?」


「先程の岩は全て大気圏で燃え尽きるように計算してあります。このロケットも逆噴射で着陸出来るはずなので問題ないと思います。」


「…はず?…思います?」


「先程のデアーラの攻撃のせいで一部破損しておりまして。でも大丈夫ですよ、多分。今起動します。」


 不安だと思っていると、その予感は往々にして的中する。彼?はすぐに真っ青な顔を俺に見せた。


「…すみません、起動出来ませんでした。どうも故障が酷かったようで…。」


「おいぃ!!俺達はどうなるんだよ!!」


「…きっと、ベルトを付けていれば、大丈夫では無いかと思います。」


 恐ろしい事を言うな。というかこのロケットがそのまま激突すれば地震が起きたりして星への影響も考えられる。


「仕方ねぇ!!」


 俺は席を立つと、「どうするつもりですか!?」という宇宙人の声を無視して外へ出た。幸い、ビアブルの魔法のお陰で息もできるし大気圏との摩擦熱でどうこうというのも無かった。


「両方守るにはこれしかない!!」


 俺はアウェイクニングバロットレットを装填した。


 [Calling!!][目覚めたる魔界の王!ヘル・マス・ター!!][降臨!!]


 そしてシールドモードへ切り替え、風のアイコンを二回タップした。


 [Mode Shield!!][Wind!!][Wind-Finish!!]


 トリガーを弾き、普通のロケットとしての風態を露わにしたそれの先頭を包み込むようにシールドを展開した。


 [ヘルマスター!!ウインドシールドフィニッシュ!!]


 そして急いで船内に戻り、席に付きシートベルトを付けた。


 次の瞬間、シールドと地面が接触したのか、衝撃が全身を襲った。風の壁で遮られたため、エアバッグのように守られてこそいたが、それでも凄まじいものであった。口を開いていたら舌を噛みそうだった。


 だがやがて揺れは治まった。


「だ、大丈夫か?」


 通信機でジュゼに連絡する。


『え、ええ。現地の兵士からの連絡では、大空洞の方で轟音こそしたようですが、大爆発や地震などは起きませんでした。』


 何とか最悪の事態は防げたようである。


 だが安堵したのも束の間、再びロケットが落下し始めた。


「な、なんだなんだ!?」


『大空洞の一部が崩落したようです!!』


 じゃあ何か。このロケット、大空洞の真上の地面に引っかかって一度止まったが、その後地面が崩れて魔界に真っ逆さまになろうとしてるってことか。俺はそこに思考が至ると、顔から血の気が引いた様な感触を覚えた。


「も、もう一度!!」


 船内から発動してどうなるか分からないが、やるしかない。俺は再び風のアイコンを二回タップし、トリガーを引いた。


 [ヘルマスター!!ウインドシールドフィニッシュ!!]


 幸い、シールドは外に発生したらしく、機体内部にはその姿は見えなかった。


 やがてガガガガガガガガガガガッッッという音と共に、船内には先程よりも凄まじい衝撃が走り、激しく全身を揺らされ、俺の意識は失われた。




「…れぐ、エレグ。」


 誰かの声がする。


「起きろこのボケ魔王!!」


 蹴り飛ばされて俺の意識は強制的に覚醒した。


「んがぁっ!!いてぇ!!何すんだ!!」


「あ、起きた。良かった、生きてて。」


 サリアであった。こいつの怪力で殴られなかっただけマシか。


 俺はどうやら座席で激しい衝撃を受け、意識を失っていたらしい。場所は変わらず宇宙船の中であったが、機械が煙を吹いている。どうも壊れたらしい。


「す、すみません。色々計算違いがありまして、通常の着陸とはなりませんでした。申し訳ありません…。」


 グレイのような宇宙人が、その大きな頭を下げてきた。


「い、いや、そんな。無事で何よりだよ。…ところで、ここは…?」


「わかりません。ただ、外気温が100度を超えています。幸い、船内の環境調節魔法は生きているので、当分生存は可能ですが、外に出たら危険ですよ。」


「ひゃく…。」


 サリアが分からないけどヤバそうだという顔で固まった。まぁヤバい。


「い、いや、大丈夫だ。俺達はその辺耐えられる魔法をかけてある。とりあえず様子を見てくるから、貴方はここにいてくれ。」


「だ、大丈夫ですか?」


 心配してくれるグレイ(仮)に大丈夫だと念押しし、俺達は外に出た。


 ビアブルの魔法が無かったら死んでいたであろう気温であった。そして膨大な火の魔力が感じられた。火が空を舞い、マグマが地を這うこの場所が、何処であるかは大凡の察しが付いた。

 俺達はどうやら、大空洞の先、火の未開拓領域へと来てしまっていたようだった。




<アイテム解説>

■ディメンジョンコンキュラーバロットレット

『空間』の力を秘めたバロットレット。スカイル・エリフィードの力を元に生成された。ヘルマスターワンドにセット(vote)することで、空間を操るディメンジョンコンキュラー・ギアを召喚、装着することが出来る。

翼にブースターが付き、空の移動が更に自由となる。

武器のモードと連動した効果を発揮し、ブレイドモードであれば[空間切断]、ハンマーモードであれば[空間圧縮]などの技を繰り出すことが出来る。ただし、一定以上の魔力で抵抗された場合は発動に失敗する場合がある。

このバロットレットをセットした場合、ヘルマスターワンドの機能は空間操作に集中するため、他属性の魔法は使用出来ない。

コールは[ディメンジョンコンキュラー!!]。

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