第553話【加藤弥生 頑張ります4】

<<加藤弥生視点>>

国際連合大学の初代学長をしていた白石弥生改め加藤弥生です。


話しは少し遡り、白石弥生から加藤弥生に替わった頃の話しです。


白石弥生はマリス様の力により、加藤弥生として転生しました。


そして白石弥生は仮の肉体を作って、亡くなったことにしたんです。


入院していた大学付属病院には大勢の学校職員や学生、卒業生等が押し掛けようとして、ひと騒ぎになりましたので、急遽学葬を執り行うことになりました。


わたしは未だ新しい肉体に慣れていなかったこともあり、近くの病室に入院していましたが、亡くなったわたしを悼む声が聞こえてくるのを不思議な気持ちで聞いていました。


「弥生ちゃん、凄い人気ね。こりゃ学葬でもしなきゃ、収まらないわね。」


「イリヤ様、学葬なんて大げさな。」


「そうでもないわよ。あなたが育てた卒業生達も、今では国際連合や各星の中核がほとんどなんだもの。


国際連合が葬儀を主催するべきだって声も大きいんですからね。」


「いや、それは困りますよ。」


「まぁ、そう言うだろうと思って、国際連合が主催するのだけは止めたけど、大学葬は止められないわね。」


「ふにゅ…」


「まぁいいじゃないの~。


あなたはそれだけのことをしてきたんだから、人の好意は有難く受け取っておきなさいな。」


イリヤ様にそう言われると、何も言えなくなるわね。


ふふっ、でも元白石弥生としては誇らしい人生を送れて本当に良かったわ。


「じゃあ、わたしは会議があるから戻るわね。


入学式まで、ゆっくりするといいわ。じゃあね。」


ニコッと笑ってイリヤ様が転移していかれました。

 ベッドの上で、お見舞いに頂いたフルーツをひと齧り。


あまーい味と香りが口いっぱいに拡がっています。


幸せな気持ちに浸っていると、隣の個室に出入りする音が聞こえて来ました。


隣の個室は空室のはずなのですが...


身体強化の魔法で聴力を高めます。


「…それで白石元学長の葬儀は儂が仕切る。

これ程の葬儀だ。儂がここで存在感を示せば、次期学長の座は自ずと儂に決まるだろう。


だが、それは奴も同じこと。あの『くそ豚野郎』きっと何かしら手を打ってくるはずだ。


現学長も既に高齢。この機会を逃すわけにはいかんぞ。分かったな!」


「「「はっ!!」」」


これが学内派閥とか言うやつでしょうか。


どうやらわたしが学長を退いてから、学内できな臭いことが起きているようですね。


リハビリも兼ねて少し探ってみましょう。


念のためにとイリヤ様から預かっている変身の魔道具を使って顔を変化させます。


これで、わたしの若い頃を知る者であっても、白石弥生だとは気付かないはずです。


ドアを開ける音がして何人かが急いで部屋を出ていくのが分かりました。


そして数十秒後、バタン!と大きな扉を叩きつけるような音が聞こえたかと思うと、バタバタと大きな足音を響かせて最後の人が部屋を出ていきました。


わたしは病室をそっと抜け出して、彼の後をつけることにしました。




その男、そうですね、呼び名が無いと不便です。ここは見た目であだ名をつけましょう。


あの男のあだ名は、『いぼガエル』でどうでしょうか。


恐らく、あの男が居るところで『いぼガエル』と言えば、あの男を指すものが100人中100人いるでしょう。


多分この世界で『いぼガエル』のあだ名が一番似合うのが彼ですね。


その『いぼガエル』さん、次期学長の座を狙うということは、間違いなく学内の者だと思われます。


そして学長に近いポジションとなれば、副学長か、事務長でしょうか。


どちらにしても、わたしが学長職を退いてから既に10年近く経っているわけですから、わたしが知らないのも無理はないでしょう。


とにかく、『いぼガエル』さんをつけて、どこの誰かかを探ることが重要です。


それと忘れてましたが、お相手の方、『くそ豚野郎』さんでしたか...


レディーに何を言わせるんですか、お相手の方は『豚』さんと呼ばせて頂きましょう。


とりあえず『いぼガエル』さんと『豚』さんの正体を突き止めることが先決ですね。


そうこうしているうちに『いぼガエル』さんは病院を出るとそのまま校外へ。


わたしも病院を出る際に変身の魔道具でパジャマからドレスにチェンジです。


せっかく変身してドレスチェンジするんですから、どうせなら変身ヒーローの○○ピンクが良かったんですが、それじゃあ、危ない人だって思われますから、普通の町娘に見える普段着にしましたよ。


校外にでて商店街を歩く『いぼガエル』さん。


途中でメイン通りから細い路地へと入って行きます。


ちょっと怖いですが、追いかけましょう。


路地をつけること数十秒。


そこでわたしが見たものは.....


真昼間なのにネオン煌めく、男の城でありました。

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