第539話【異世界保険機構(AHO)4】
<<リリス視点>>
サルバートと共に国際連合に行ったわたしですが、よく分からないうちにイリヤ様と懇意にさせて頂き、イリヤ様の側近という立場でAHOに関わることが出来ることになりました。
お父様やお母様も喜んで下さり、その日は明け方まで、王宮で祝賀会が行なわれました。
そしてあれから1ヶ月の日が経ちました。
今日は、わたしが国際連合にお勤めを始める日。
そう、異世界保健機構(AHO)の発足日なのです。
わたしの役職名は秘書というそうです。
わたしの国には無い職業なのですが、一番近いところでは執事に該当するのでしょうか。
もちろん、わたしの他にもイリヤ様の秘書は30名程おられます。
そして、秘書にはそれぞれの役割があるのです。
秘書の約8割は、加盟各星におけるAHOの運営状況の把握とアドバイスを担当しています。
エリヤマネージャーとかいう肩書だそうですが、おひとりが数10の星を管轄しており、自分の管轄するエリアの星々に対して、適切なアドバイスや管理をするのが仕事です。
AHO自体が初めての組織であり、その役割も試行錯誤であるため、エリアマネージャーには、先進技術を持つ国の王族や研究者、医師などが集められています。
残りの半数、つまり秘書の1割の3人はスーパーバイザーです。
各エリアマネージャーから報告される様々な問題や新しい事象に対し、この3人が中心になって対策を検討し、イリヤ様への上申、エリアマネージャーへの指導を行います。
スーパーバイザーには、転移者と呼ばれる神から特別な祝福を受けた特別な存在の中から厳選されたスキルを持つ者をイリヤ様が集められました。
そして残りの3人。そう、わたしを含めた3人は各星やエリアマネージャー、スーパーバイザーから集まってくる様々な情報を纏めて今後の大方針を打ち出していく司令室を担うことになりました。
「どうしてわたしが?」
司令室は異世界保健機構の中枢とも言える部門です。
その分的確な判断力といくつもの案から唯一を選択できる強靭な精神力が必要なのです。
「わたしなんかには司令室なんて重職は無理なんです。
わたしなんて皆さんに比べたら、知識も能力も全然足りないし、素晴らしいスキルも何にもないんですから。
どうしてわたしなんかが、わたしなんかが司令室に選ばれたのでしょうか?」
どちらかというと消極的で他人と話すのが苦手なわたしが、あれほどの優秀な方達と肩を並べて...いや、やもすれば彼等の上に立つようなことなんて....あり得ないです。
「リリスちゃんだからよ。リリスちゃんだから選んだの。」
イリヤ様がわたしの手をやさしく握って語り掛けて下さいます。
「あのね、リリスちゃん。AHOに必要なことって何かわかる?
医療技術はもちろん必要よね。
情報も必要だわ。
はやり病なんかは出来るだけ早期に発見して速やかに治療する必要があるものね。
それと教育も必要。今ある病気に対する知識はもちろん、未だ存在しない治療薬の開発も必要よ。
でもね、それよりももっと必要なことがあるのよ。
それはね、実際に病気になった人の目線で考えられる人よ。
加盟星には多くの人達がいるわ。
そしてそのほとんどが庶民であり、高価な治療が受けられない人達なの。
あなたはその人達の目線に立って、その人達を救うために何が出来るかを考えられる人材なの。
大丈夫。わたしが保証するわ。頑張ってねリリスちゃん。」
庶民の目線に立って、何が出来るかを考える.....
難しいことだよね。この前ニュースで見た天然痘だって、イリヤ様のお母様である聖母リザベート様が動かれたにも関わらす、死者は出たんだもの。
もちろん、リザベート様の存在が無ければ、星全体が死滅していた可能性もあったんだから、有難い奇跡が起こったことは間違いないんだけど。
だから、全員を助けるなんてことは出来るはずが無いんだもの。
でも、でもひとりでも救える命があるんだったら....
全員が救えなくても、患者さんに寄り添って安心して旅立ってもらえたら....
そんなことが実現できるのか、わたしに出来るのか....
ううん...出来るんじゃなくて、出来るために何をするのかを考えなくちゃならないんだ。
ひとりでも多くの命を救うための出来ること、それを考えなくちゃ。
そう、あの時、リザベート様達の献身的な看護を見てそう決意したじゃない。
わたしもああなりたいって。
イリヤ様にその機会を与えて頂いたんだ。
何が出来るのか分からない。でもわたしなりに精一杯頑張ろう。
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