第540話【異世界保健機構(AHO)5】

<<リリス視点>>

「司令室、司令室、応答願います!」


司令室に配属されてから、数週間経ちました。


加盟星の数が多いため、頻繁にここ司令室にも連絡が入って来ます。


エリアマネージャーからスーパーバイザー経由で司令室に救援連絡が入って来るのだけでもそれなりの数があるのですから、アチラで解決出来ている問題も含めると、日々かなりの数の問題が起きているのです。


「イリヤ様、問題番号A15326の進捗報告がスーパーバイザーのチズルさんから入っていますが。」


「繋いで。


チズルさんご苦労様です。


先日の対処方法に対する進捗報告ですよね。


蔓延防止と症状改善状況はいかがですか?


ふむふむ、蔓延防止についてはほぼ効果が出ているのですか。


症状改善については、患者さんによってばらつきがあると。


分かりました。ばらつきについては、資料が纏まったらこちらに送って下さいね。


チズルさん、大変だと思うけど、貴方の頑張りが多くの人を救うの。


エリアマネージャーの皆さんにも伝えて下さい。


こちらからも支援するので、一緒に頑張りましょうってね。」


問題が起こると、アチラで解決出来たものも含めて、問題番号という識別子が振られます。


そこにはそれぞれの内容と初期対応、根本原因とその解決方法が詳細に纏められ、それが全てのスーパーバイザーとエリアマネージャーを通して、全加盟星に設立されているナイチンゲール隊に配布されます。






ビーーーーーー!!!


「緊急連絡!緊急連絡!こちらヤビット! スミット星にて黒死病と思われる大量の患者が発生!至急応援願います!


緊急連絡!緊急連絡!こちらヤビット! スミット星にて黒死病と思われる大量の患者が発生!至急応援願います!」


突然司令室に警告音が鳴り響き、スミット星を管轄するエリアマネージャーのヤビックさんから悲鳴とも取れる緊急連絡が入りました。


「黒死病ですってーー!」


イリヤ様の叫びにも似た声に司令室全体に緊張が走ります。


「まずいわね。爆発的な死者が出る可能性が高いわ。

....それと、気掛かりなのは、回復傾向に向かってからね。....」


黒死病とはペスト菌が引き起こす爆発的流行病のことです。


この病気に対しては多くの星で確認されており、過去事例は多いのですが発症後10日程度で亡くなってしまう患者さんが多く、早期に抗菌薬を投与しないと、その致死率は30%~60%にも達すると言われます。

実際にはこの病気が蔓延する地域は発展途上の場合が多く、衛生面や医療体制の問題により、80%以上の致死率があるとも言われる恐ろしい病気です。


「救急チームは完全防護服を着用してすぐに現場に向かって!

ヘルベさん!スミット星の人口は?」


「未開拓地域が多く詳細は不明ですが、都市部だけでも最低12億人は居ると推定されます。」


「都市部に12億人か...まずいわね。こちらにある抗菌薬だけじゃ間違いなく足りない。


ヘルべさん、すぐに各スーパーバイザーに連絡して抗菌薬を集めるように手配してくれる?


それと、お兄様に連絡よ。異世界防衛連合軍に『黒死病パニック』の防止体制をとらせて!」


「了解です。すぐに連絡します。」


「ありがとう。頼んだわよ。」


いつになくイリヤ様の顔に焦りがあります。


黒死病は非常に厄介な病気ですが、逆にありふれた病気だとも言えます。

ここに配属された時に受けた教育でもその名前はよく聞きました。


確かに致死率は非常に高いのですが、その分原因となるペスト菌を退治する抗菌薬の効果も高まっており、早期治療すれば致死率は10%にも満たないのです。


少し前、わたしの星でも発生しましたが、国際連合からの迅速な指導に加え、大量の抗菌薬の提供もあり、早期に撲滅、患者数も数100名で抑えられたのです。


ですから、緊急性の高い事案とはいえ、イリヤ様の焦りの原因が、わたしには分かりませんでした。


「リリスさん、あなたの星の場合と、今回ではかなり事情が異なるのよ。」


顔に出ていたのでしょうか、イリヤ様がわたしに向かって話し掛けて来られました。


「あなたの星は、あなたのお父様が非常によく統治されており、医療体制や衛生管理も整っていたわ。


その上、上下水道も人が住むエリアのほぼ100%と言っていいほど整備されていたし、清潔に保たれていた。


つまりペスト菌が蔓延する要素が限りなく少なかったわけよ。


あの時は他の星と交易を始めたばかりで検疫が不十分だったため輸入した穀物に紛れたネズミから始まったのよねえ。」


「そうです。荷揚げされた倉庫を管理する者が感染者第1号で港を中心に流行したのです。


逆に港街だったので、早期に隔離することもできたのですが。......あっ!」


イリヤ様の言いたいことが分かったような気がしました。



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