第517話【横流しを阻止せよ6】

<<ランス視点>>

今回のラスゴスの商人が起こした密売事件。全容が明らかになりました。


どうやらラスゴスの全権大使が黒幕のようです。いえ、もしかしたらもっと黒幕がいるのかもしれませんが。


その辺りはラスゴス内部の自浄作用に期待しましょう。


ラスゴスは砂漠と氷河に覆われた厳しい環境の星です。


恒星からの距離は太陽と地球の距離とそう変わらないのですが、地軸の傾きが90度、つまり太陽に向かって一直線になっているため、半球は絶えず日を浴びており、反対側は全く日が当たらないのです。


植物の育ちが悪く、豊富な天然資源である石油や天然ガス、鉱石などを輸出して、食い繋いでいる状況です。


そのため、他の星から足元を見られることもしばしばで、対等な交易が難しい状況になっているとか。


特に、最近はクリーンエネルギーブームで太陽光や風力、地熱を使ったエネルギー開発に力を入れている星も多く、更に足元を見られているそうです。


そんな中、全権大使が選んだのが...密売でした。


元々星全体を牛耳る商人ギルドの長であった全権大使は、子飼いの商人を未だ文明の未熟な星に次々と送り込み、その地の冒険者を巧みに使って冒険者から直接買い取ることで、通常交易の相場よりもかなり安く食材を手にしていたようです。


こうして獲得した食材はラスゴスで正規価格で販売され、その差益で全権大使率いる商人ギルドが荒稼ぎしていたのでした。


ラスゴス王室の協力を得て調査したところ、密売は20星にも及び、ラスゴス全体の食料供給量の約40%は密売によるものだと判明しました。


つまり、密売無くして立ち行かないほど、ラスゴスは追い詰められていたのです。


そしてその窮状を目の当たりにした全権大使は初めは仕方なく密売に手を染めたのかもしれませんね。


ただ、その甘い蜜は善良だったはずの全権大使を歪めてしまったのかもしれません。


この辺りは神のみぞ知るということでしょうか?


お父様もマリス様達も首をフルフルと振っていますが....


そうですよね、そんなことまで神様も知らないですよね。


これまで何件かラスゴスの密売を摘発していたので、今回も俺達がラスゴスの商人を監視していたところ、偶然セカンズで不正の現場を見つけてしまったのです。


ところで、あの時にラスゴスの商人が持っていた強力な兵器ですが、どうやらホンジュラ星の武器商人から手に入れた物らしいです。


あの兵器も実は輸出禁止項目にリストアップされているもので密輸でしか手に入らないものでした。


この辺りの事情もラスゴスの全権大使が素直に吐いてくれましたので、早速、武器商人の方も捜査するようにイリヤに頼んでおきました。


異世界防衛連合軍の皆さんは優秀ですから、全容もすぐに判明し、潰しておいてくれると思います。



さて、今回の始末はどうしましょうかね。



「ねえマサルさん、元々はラスゴスの過酷な環境が原因なわけよね。だったら、ラスク星みたいに気候の良い星にしてあげたら良いんじゃない?」


「うーーん、そんなんだけど、それをラスゴスの人達が望んでいるのかなあ。」


「望んでるに決まってるじゃない。ねえ、ランス君。」


「もお、こっちに振らないで下さいマリス様。でもちょっと聞いてみましょうか。」


ラスゴスの統一王に打診してみると、諸手を上げて神の奇跡を望んでいた。


「マリス様、マリス様の提案を向こうの統一王は喜んでました。」


「そりゃそうよ。ねえ、マサルさん。何とかしてあげて。」


「やっぱり俺に振るんだね。えーっと、地軸がこの角度だから問題なわけで、このくらいに修正してあげたら、....ふむふむ、このくらいにして、それと交点軸もこのくらいにしておかないとバランスが悪いかな。

あと質量もちょっと弄ってっと.....


よし、これでどうだろう?」


お父様、ますます人間離れしているよね。星を傾けて季節を作っちゃうとか。


うわっ、言い出しっぺのマリス様も引いてるよ。


えっ、神の世界でも異常なことなの!



ラスゴス歴で数10年後、美しい四季を持つラスゴス星には、様々な動植物や食材となる魔物が移植され、食料自給率が90%まで賄えるようになりました。


全権大使の密売から始まった今回の事件ですが、何とか上手く解決できたようでホッと一安心です。




横流しを阻止せよ 編 完

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