第518話【交易ギルド1】
<<セカンズ全権大使 キャム視点>>
「そうだ、交易ギルドをつくろう!」
ことの発端は、王都で発覚したダンジョン資源の密売事件であった。
豊富に産出出来て、異世界では希少なダンジョン資源の輸出を当面の交易の柱にすることにした我がセカンズだが、それが密売という形で足を掬われたのだ。
現在、交易には各国に登録されている交易商人が携われることになっているのだが、あくまで各商人が窓口になっているというだけで、どのくらいの量が何処に輸出されているのかを管理することは各国に任されている。
そのため、密輸があったとしてもそれを監視する機関も取り締まる機関も無いのが現状だ。
今回はたまたまダンジョンギルドと冒険者ギルドの連携で発覚し、何故か分からないがスピーディーに解決した。
このままではだめだ。
そこで交易ギルドなるものを創設することにしたのだ。
これまで各国の王室が管理していた交易の窓口を交易ギルドが一本化する。
そして年間の輸出総量をあらかじめ決めておき、値崩れと資源枯渇が起きないように調整する。
また、異世界防衛連合軍と連携して密輸に関する取り締まり規定を作成し、セカンズの常駐部隊を使って不正な輸出入の取り締まりを行うのだ。
これだけで全てが上手くいくわけも無い。
未だ、実際に取引する商人の選定と監視をどうするのか?
富が集中する交易ギルドで不正が出ないか?
相手側がルールを順守するか?など、問題は山積であるが、とりあえずの形は出来た。
サスガ事務長を通じてランス様にも承認を得たのだが、ランス様も今回の取り組みに関しては評価して頂いたようで、国際連合としても全面協力して頂けることになったようだ。
国際裁判所の中に交易仲裁所と交易監視軍を創設頂き、交易する各国にもルール適用してもらえるようになりそうだとはサスガ事務長の弁。
さて努力の甲斐もあって順調に交易ギルドも機能し出したようだ。
国内の流通も含め、外貨獲得にも貢献できている。
だが、ここで問題が持ち上がった。
交易の対象は我がダンジョン資源だけじゃない。
当然相手からの輸入もあるわけで、その輸入相手星の主要輸出品が食料とは限らないのだ。
ダンジョン資源の輸出先のひとつ、ホンジュラ星は主要輸出品が厄介なものだった。
『兵器』、そう武器がホンジュラ星の主要輸出品なのだ。
元々ホンジュラ星というのは古い時代から内戦が絶えない星で、兵器開発が異常に進んだそうだ。
それが、マリス様やマサル神様の仲介で内戦が無くなり、平和になったのだが、その後も兵器産業は衰えることが無かったみたいだ。
ホンジュラ星は今では四季豊かで温暖で平和な星になっているのだが、兵器産業が盛んで主要輸出物になっているせいで、『死の星』だとか『死神の星』とかっていう悪名を轟かせているらしい。
とにかくホンジュラ星の兵器は優秀で価格も手頃なため、良く売れているそうだ。
セカンズでも交易バランスを保つために一定量輸入しているのだが、星内生産の物よりもはるかに性能が良く、価格も6割程度ということで、軍がもっと大量に欲しがるのだ。
確かに適度な軍備は星間の牽制に必要なため、武器の保持は否めないが過剰軍備は余計な重大問題を起こす火種にしかならない。
今はまだ輸出入の総量規制をすることで抑えることが出来ているが、サスガ事務長の話しでは、『自由貿易』を謳っている星も増えてきたという。
まあ、完全な自由貿易に至るまでにはまだまだ解決すべきことも多いため、数10年先の話しにはなるであろうが、輸出入量の規制撤廃や関税の見直しは早々に考えなければならない課題となっているのだ。
そういう意味では、ホンジュラ星との取引はますます問題となってくるのだった。
ホンジュラ星の問題はそれだけに留まらない。
それは武器商人の存在だ。
武器商人の強かさは我々の想像を遥かに超えた。
戦争の最中に両陣営に同時に武器を売り付けるのだから、商売に関しては傍若無人と言えよう。
その武器商人があの手この手で密売しようとするのである。
善良なる我が国民が騙されるのも仕方あるまい。
だが、手をこまねく暇は無い。
こちらも輸出している以上、どういう風に規制を掛けるのか、悩ましいところだな。
必要以上の威力を持つ武器を売ろうと企む者。
禁制のダンジョン産物を横流ししようとする者。
あぁ、前途多難である。
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