第512話【横流しを阻止せよ1】

<<冒険者ギルド ギルドマスタ アトム視点>>

俺の名はアトム。


王都からほど近いカヤクラムの街のダンジョンマスタをしている。

ここカヤクラムにはカヤクラム・ダンジョンという良質のダンジョンがあり、この街自体が、ダンジョンの恩恵で出来たようなものだ。


俺はここの生まれで親父の後を継いで10年ほど前からギルドマスタをしている。


俺がギルドマスタになったばかりの頃は、まだ冒険者ギルドの地位はそれほど高くなかったんだが、ギルマスの大先輩でもあるキャム公爵のお陰で、冒険者ギルドの地位も上がり、息子にも跡を継がせたいと思えるようになったんだよな。


これまではダンジョンの管理と冒険者の管理、ダンジョンからの収穫物の卸しなんかは全て冒険者ギルドの仕事だったんだぜ。


何とかやってたんだが、他の星と交易を始めてからは、もう手が回らなくなってたよ。


だからダンジョンギルドが出来た時は本当に助かったぜ。


知らない奴らは冒険者ギルドとダンジョンギルドは仲が悪いとか言ってるみたいだけど、そんなこたぁねえ。


いや他のダンジョンのこたぁ知らねえけど、少なくとも俺んとこは良好だぜ。


棲み分けがちゃんとできてるしな。


ダンジョンギルドのギルマスやってるウランとも良くここで呑んでるし。



そんなある日のこと、ウランが昼間っから冒険者ギルドへ来やがったんだ。


「ウラン、今日はまだお天道様が高いところにいらっしゃるぜ。早すぎるんじゃねえのか?」


「アトム、今日は呑みに来たんじゃねえんだ。ちょっと話しがある。奥の部屋にいいか?」


「ああ、何やら問題ごとみたいだな。俺の部屋に行こう」


俺はウランを連れて一番奥にあるギルマスの執務室へと入った。


「まあ、そこに座ってくれ。ところで話しってえのは?」


「ああ、冒険者の横流しのことだ」


「横流し...だと!何か証拠でもあるのかい」


「ああ、先日キャム公爵の肝いりで『買い取りシステム』が導入されただろう」


「あれは便利だな。助かってるよ」


「俺のとこでも『買い取りシステム』を導入した。


もちろん買い取りすることが目的では無くて、ダンジョンから持ち出される生物の査定と数量の把握をするためだが」


「それで、それが横流しとどう関係するんだ?」


「ダンジョン産の資源は全て冒険者ギルドが買い取ることになっているな」


「ああそうだ.....もしかすると、ダンジョンから出る時に計測した数値と、うちが扱った数値が合わないと!」


「そういうことだ。うちの経理課が見つけたんだ。


ちなみに遡って数ヶ月検証させたんだが、少しづつ増えているらしい」


「ウランすまねぇ、誰がやったか分かるかい?」


「そこまでは把握できていないみたいだ。

だがこれは大問題だ。早期に発覚したから良かったようなものの、他の星の密売人に流れてしまったら、星同士の交易自体に影響を及ぼすかもしれん」


「そうだな、こちらで取り締まりを強化する。しばらく時間をくれ」


「わかった、アトム。頼んだぞ」





横流しだと!


これは問題だ。これまでダンジョンから採取したものは全て冒険者ギルドに集まる決まりになっていた。


この街の商人なら皆知っていることだし、横流しなんて街のためにならないことをやる奴なんていなかったのだ。


ってことは他所から来た商人か?


だが、冒険者ギルドの買値は物によっちゃ市場価格よりも高くしているものもある。


需要の多い食料品となるものがそうだ。


街の寄付金と国からの補助金が無けりゃ成り立たないくらいに頑張っているはずだがな。


うちよりも高く買い取って商売になるはずがねぇ。


何かからくりがあるはずだ。



翌日、俺はAランクグループの『紅い薔薇』を呼び出した。


「ギルマス、俺達を招集するってことは、問題発生ってことか?」


「フレア、その通りだ。

冒険者の誰かが横流ししやがったんだよ。」


「横流し…だと。それは由々しき事態だな。


だが、そんなことをするメリットが無いじゃないか。


対して稼ぎにならないし、よく売れるものは市場価格よりも買取価格が高く設定されているだろう。


割に合わないのは皆んな知っているはずだ」


「そうだな。俺もそう考えた。


だからこそお前達を呼び出したんだ。


確かにこの街では価格的にも割に合わない。


だが、うちの買取価格よりも高く買い取ってくれるところがあったらどうする」


「まさか、輸送費まで考えたら、そんなところがあるなんて考えられないな」


「普通に考えたらその通りだ。


そしてこの近隣の街でも市場価格はこことほとんど変わらないから、フレアの言うことは正しい。


そこでお前達『紅い薔薇』で、調べて欲しいんだ」


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