第511話【ダンジョンギルド2】
<<ダンジョンギルド購買課ハスマ視点>>
「さあ、今日も1日気合いを入れて、納入受入れから始めるかな。」
購買課の朝は早い。
武器や回復薬の納入業者が、早朝から列を作っているからだ。
納入業者を絞り込んで業者数を減らしてしまえば楽なのだが、そうしないのは地域経済の活性化と、癒着撲滅を目指したギルドマスターのアイデアではある。
だが、如何せん数が多すぎる。
毎朝50商会を超える納入業者が列を作って、納入検品を待っているのだ。
対するこちらは3人ぽっち。
毎朝この業務だけで午前中の6時間を費やしてしまう。
ギルドの通常業務開始が朝の9時だから、それまでには最低限でも狩猟課が狩りに持ち出す分だけでも検品を終わらさなきゃいけないんだよな。
そして昼食を食べた午後1番に他の部署から品物を受け取りに来る。
その対応に2時間あまり。
3時過ぎに発注を終えたばかりの発注班が、翌日の入荷予定リストを持ってくる。
そのリストと、納期回答メールを見比べながら明日の受付け順番を決めていたら、いつの間にか4時の鐘が鳴っているんだ。
さあ、今日も1日よく働いたな。
今日は定時退社日だし、早く帰って酒でも飲むかな。
<<整備課マルト視点>>
朝9時に出社したら、修理依頼の武器やら防具が山積みになっている。
最近は狩猟課が成果主義とかってのを採り入れたから、やたらと修理依頼が増えた。
以前の3倍くらいになっているんじゃなかろうか。
「おめえーら!今日もパキパキ働けよー!
今日は19日だ!
この分は今日中に終わらせないと、明日は地獄を見るぜ。」
「「「おーーーー!」」」
そう今日は5月19日。
月締め前日の19日は、狩猟課の連中が最後の足掻きを見せて、いつもより激しく狩りをするのだ。
そのため、武器の修理依頼がハンパない。
今でも修理待ちで溢れかえっているのに…
あー、想像したくねぇー
それにしても今日は剣が多いな。
そうか、確か計画課の予定表では今週は『岩石亀』が、討伐対象になってたっけ。
だから、刃の欠けた剣ばかりなのか。
魔法は全く効かないし、剣で地道に削るしかねえ厄介な魔物だ。
今はまだそんなに熱くないから長時間の炉場にも耐えられるが、この両じゃ夏になったらどうなることか。
防具の修理が少ないことだけまだましだと考えよう。
あの汗まみれの革の匂いといったら我慢できたもんじゃねえよな。
あれに埋もれるのに比べたら、まだ炉場の方がましか。
こんなこと考えてても仕方ねえ、早く終わらせなきゃ、今日も残業になっちまうぜ。
<<経理課ケイト視点>>
今日も大量の請求書と納品書が机の上に積み上げられています。
ホントに間に合って良かったわ。
異世界との交易が始まって、ダンジョン産の魔物が飛ぶように輸出されるようになったんです。
冒険者ギルドが輸出用の狩りをするんですが、ダンジョンギルドはダンジョン資源の保護が仕事なんです。
冒険者ギルドから支払われるダンジョン使用料と狩猟課が間引きした生物を売った金額がダンジョンギルドの主な収入源となります。
月末に冒険者ギルドからの使用料は、冒険者が狩った魔物の量と品質に応じて支払われるため、何をどれだけ買ったのかをキチンと把握し、使用料との整合性を計算するのがとてつもなく大変だったんです。
そう、これまでは。
3ケ月前、国際連合の全権大使でもあるキャム公爵様がラスク星という星に視察に行かれた際、そこの冒険者ギルドの『買い取りシステム』を気に入られたようで、我が星でも採用されることになりました。
記録用の魔道具を使って、冒険者が持ち込んだ収穫物を登録していくと、自動的に買い取り価格が算定され、それに応じた金額を冒険者に支払うための冒険者ギルドが使うシステムなのですが、これを、冒険者ギルドと、ダンジョンギルドの双方に導入したのが2ケ月。
冒険者がダンジョンから持ち出した収穫物の量と質を記録しておき、冒険者ギルドで買い取った収穫物のそれと比較するんです。
付き合わせに要する時間は僅か2分。これで月に2日以上掛かっていた処理があっという間に完了するようになったのです。
ダンジョンギルド自体はまだ他の世界には少ないみたいで、こういった使い方はこの星でしかやっていないみたいなんです。
ちなみにキャムさんは今回のシステム全体を国際裁判所の特許システムに登録したようです。
さすが、異世界を股に駆ける男は違いますね。
さて、突き合わせに要する時間が大幅に短縮され良いことづくめのこのシステム、
運用を始めて新たな問題が発覚しました。
冒険者の横流しです。
つまりダンジョンギルドの『買い取りシステム』から算出した数量と冒険者ギルドの『買い取りシステム』から算出した数量で合わないところが出てきたんです。
つまり冒険者が狩った収穫物を冒険者ギルドに販売せずに他の闇業者に販売しているということです。
これは両ギルドにとって由々しき事態であり、早々に手を打たなければならない問題です。
そして両ギルドマスタが膝を交えての話し合いが始まったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます