第502話【キャム、冒険者になる1】

ここから何話かキャム少年の大人になるまでの話になります。

国際連合の調印式を迎える辺りから本編と合流します。


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<<幼き日のキャム少年視点>>

崖の上から落ちてマリス様に助けられた時から1週間後、今日も僕はお父さんが経営する居酒屋『冒険者ギルド』でアルバイト中です。


未だ食材の買い出しやお客さんの食べ終わったお皿を下げたりするくらいしか出来ないんだけど、一生懸命お手伝いです。


この辺りは、ダンジョンの入口があるので、冒険者と呼ばれる人達が多く、街の大半の大人は、冒険者として働いているみたいですね。


とは言え、ダンジョンが解禁になったのは、まだ最近のことなのです。





少し前まで、冒険者とは山に入って狩りをしたり、街の雑用をしたりする日雇い労働者を指してしました。


居酒屋『冒険者ギルド』も、彼らが仕事終わりに集まれるようにお父さんが始めたみたいです。


そんなある日のこと、店の前に1枚の紙が落ちていました。


僕が拾いましたが字が読めず、そのままお父さんへ。


「ええっ!すぐ近くにダンジョンが出来たって!」


お父さんが驚くのも無理はありません。


村長さんから女神マリス様のお告げでダンジョンというものが出来るとは聞いていましたが、こんな片田舎には関係ないことだと、皆んな思っていましたからね。


「村長のところに行ってくる」


そう言って店から飛び出して行ったお父さんが、帰って来たのは夜遅くのことでした。


翌日から、店には村長さんや村の若い衆が集まって、ダンジョンの攻略についての話し合いが始まりました。


そして定職を持たない冒険者達が、ダンジョンの攻略に挑むことになったのです。





「本当ならダンジョンで稼いだ奴らがこの店を儲けさせてくれるはずなんだが」と言っているのは、さっきダンジョンから戻ったばかりで、獲物のバッファローを捌いているお父さん。


そうなんです、お父さんは冒険者としてダンジョンに入って、自分で獲ってきた獲物を食材に、居酒屋を切り盛りしているんです。


ダンジョンから獲れる食材って、魔物に限らず草やキノコでも美味しいんですよね。


ブツブツ言いながらも夜の仕込みを終えたお父さんはその大きな身体で小さな椅子に腰掛けて、店の前に陣取ります。


これもいつもの光景です。


だって、ダンジョンから帰って来る冒険者の皆さんは手ぶらの人が多く、居酒屋で呑んで帰ろうなんて人は少ないんです。


だからお父さんは冒険者が前を通るたびに声を掛けます。


「おーい、ヤスト〜!

ちょっと寄っていかねーかー。


新鮮なバッファローが入ってるぜー!」


「今日は成果無しだよ!。金がねぇーんだ!」


「付けといてやるよ。折角のバッファローが勿体ねえや。」


「いつも悪いなぁ。」


ヤストさんは若い冒険者なんですが、こうして付けで呑んでいくことが多いんです。


お父さんは先行投資だとか言ってますけど、回収出来るのでしょうか。


しばらくするとヤストさんみたいな人が集まって、あれだけ大きかったバッファローも骨だけになってしまいました。


お店もお開きですね。


冒険者の人達が獲ってきた獲物はお父さんが買取り、店で調理したり、村の人達に販売することになっています。


最近は居酒屋メニュー以外に薬草や強壮薬なんかも売り始めました。



今日も朝からダンジョンに行っていたお父さんが、ワイルドボアを獲ってきました。


200キロはありそうな大物です。


他にも何体かの獲物を持っていました。


お父さんには特殊スキルであるマジックバッグがあるから大物でも大丈夫なんです。


「お父さん、今日も凄いね。

お父さんが冒険者になったほうが良いんじゃない?」


「馬鹿言え。お父さんが冒険者になったら、誰が獲物を買い取るんだよ。」


「そうだったね。皆んな困るね。」


「そうだろう。まぁキャム心配はいらねえよ。


今はまだ未熟な彼奴等だけどな、慣れてくりゃ獲物をわんさか獲ってくるようになるさ。」


そう言いながら、お父さんはダンジョン帰りに店でちびちびやっている皆んなを優しく見つめていました。


お父さんの予言通り、しばらくして居酒屋『冒険者ギルド』は大盛況になってしまいました。


実力を付け出した冒険者が獲ってきた良質な食材は大人気で、遠くの村から買いに来るお客さんまでいます。


「親父さん。ご馳走さまでした。!今日も旨かったです。


ところでまた、護衛の人をお願い出来ますかね?」


「あー、スミソン商会の若旦那だったね。

いつもありがとうね。

今日は〜、おいキャム、誰が坊主だった奴居ねえか?」


「お父さん、サラスさんが居るよ。


でもスミソン商会さんは遠いし、危険な時間だから、あと2人ほど、見繕うかい?」


「全くキャム君は商売上手だね。大きくなったらウチに来ないかい。


親父さん、3人でお願いします。」


「若旦那さん、ありがとう。この店が潰れたらご厄介になります。


ほら、サラスさんと、そこのおふたり、仕事ですよ。


頑張って稼いできてね。」


「キャム、いつも悪いなぁ。頑張って来るぜ。


スミソンの若旦那、よろしくおねがいしやす。」


「親父さん、じゃあまた来ます。ありがとうございました。」


少し色の付いた食事代がテーブルに置かれているのもいつもの光景。


若旦那さんは手配料のつもりらしく、断っても引いてくれませんから、有難く頂戴しています。


そのお金はお父さんが蓄えていて、怪我をして働けなくなった冒険者の生活費の一部になっています。


最近若旦那さんの心付けが少し増えたのは、そのことを護衛の冒険者から聞いたからみたいです。

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