第492話【マサル異世界を創る6】

<<スイム視点>>

室長が高速時間軸に入っている間、僕達は外からその様子を見ていました。


600倍で動く時間軸の中では1分が10時間となり、ラスク星での1日が僅か2分程度で流れます。


その中で、室長は自ら作った模型を使って、様々な星の配置を試しては微調整を繰り返しています。


目まぐるしい動きの中、少しづつ9つの星が安定して動くようになる様を見ていました。


3人であれだけ苦労して考えて、結局諦めたのに、もう少しで出来そうな勢いです。


そして遂に、1つの大きな輝く星を中心として9つの星が安定して動いたのです。


「「「おおおおーーーー」」」


僕達3人はもとより、マリス先輩やジェイドさん、そして様子を見に来ていた調査部の面々からも、どよめきが上がります。


「マサルさん凄いじゃない!こんな星の配置は初めて見たわ。」


高速時間軸から出てきた室長をマリス先輩がお出迎えしますが、室長は渋い顔のままです。


「おやジーク室長も来られていましたか。ジオンさんもご無沙汰しています。」


「いやあ、マサル君凄いね。こんな配置は初めて見たよ。」


「有難うございます。でも、これじゃだめです。このまま質量を増やしていくと、各惑星に微細な振動が発生していきます。


何かの拍子にその振動が共鳴したら、瞬く間にこの繊細なバランスは崩れてしまうでしょうね。」


「そうだな。たしかに神業にも等しいバランスを保っているが、宇宙風や彗星など予測できない要因は計算しておかないとな。」


「ジオンさん。そうなんです。これまでアースでも彗星の接近や隕石の落下などで大きな被害があったり地軸がゆがんだりしているみたいですからね。


そういうことも考慮すると、この模型は使えません。


もう一度、考え直してみます。今度はちょっと時間が掛かるかももしれませんから、一旦解散にしましょう。」


そう言うと、室長はまた高速時間軸にある模型の元に戻って行きました。


「ふうーー。壊れたら壊れた時でいいじゃないねえ。」


マリス先輩の何気ない呟きに、その場にいる全員が突っ込むのでした。


「「「そりゃダメでしょう!!!」」」




そして翌日の午後、僕達は昨日の場所まで戻ってきました。


昨日の面々は全員集まっています。


高速時間軸の中では相変わらず室長が激しく動き回っています。


そして小1時間が過ぎた頃、室長が戻ってこられました。


「やあ、また皆んな集まっていたんですね。何とか思うようにできましたよ。」


少し疲れが見える室長ですが、自信があるのでしょうか、顔には昨日は無かった笑みがこぼれています。


高速時間軸から出された縮小模型は、想像もつかない変貌を遂げていました。


大きな星を中央に、その両端に大きな円状の紐のようなものが2本、等間隔で縦車輪のように並んでいます。


そしてその紐状のものには4つないし5つの小星が付けられており、2本の紐が同じ速度で縦回転するのに合わせてそれらの星も回転しています。


そして2本の紐は大きな星を中心として横回転もしているのです。


何とも不思議な光景ですが、昨日見た配置よりもさらに安定しているように見えました。


「いやあ、驚いたよマサル君。この発想は今まで無かったな。


これなら安定しているし、全ての惑星が恒星とも近しい距離を保てる。


素晴らしい発想だよ。」


いつもは寡黙で、めったに人を褒めないジオン先輩も大絶賛しています。


「ジオンさんありがとうございます。少し時間が掛かってしまいましたが、何とか。


後は人が住めるくらいに温度が維持できるような調整を各惑星毎にすれば実際の星に適用しても大丈夫かなと思っています。じゃあ今から実際の星にも適用してみますね。」



それだけ言うと室長は、大きく手を振りながら魔法を発動した。


「リロケーション!!」




『星の創り方 レシピその3


生命が誕生できるように気温、大気、地表を整えます。』


実際の星の移動が完了した後、僕達は室長に連れられて9つの小星の内のひとつに移動しました。


「この星で今から生命が住めるように改良するからよく見ていて。3人で残りの星を手伝ってもらうからね。」


「「「はいっ!」」」


室長は魔法では無く工作課が使用する魔道具を用いて、ひとつひとつ説明しながら実際に操作を実演してくれました。


やがてドロドロとした溶岩は冷えて固まり、大気が星を覆ったかと思えば、そこに強い雨を降らせ、地表の窪みを水で満たしていきます。


そして最後に大気の外側に濃い魔素の幕が張られると、地表の温度は安定して保たれ、そこに原始植物が生育し始めたのでした。





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