第491話【マサル異世界を創る5】
<<アルト視点>>
星創りの予定地に着いてすぐに星を創っては並べていく室長の手際良さに啞然とするばかりだ。
僕達が当初実現したかった1つの大きな星とその周囲を取り巻く9つ星の形にはならなかったが、星の数は当初通り。
あれほど苦労して結局実現出来なかった僕達なのに、室長は、あっという間に創ってしまった。
「あんなに苦労したのに……
やっぱり室長は凄いです。」
「いやぁ、歳の功って言うのかな。
でも偶々俺の出身地でもある太陽系を真似ただけなんだけどね。
ただ、君達は全ての惑星を均等に配置して、それぞれの星にある生命を行き来させたかったんだよねえ。
今のままじゃ、生命が存在できる星が限られているから、君達の考えていた理想とはかけ離れてしまうんだ。
だからこれからちょっとづつ弄って、君達の理想に近づけられるようにするつもりだ。」
いやあ、室長、それは無理でしょう。中心にある大星、えーっと恒星って言うんだっけ、あれの熱が伝わるところまでそれぞれの小星を近づけなきゃいけないんだよね。
そしたら僕達の時みたいにぶつかって壊れちゃうんじゃないの?
「室長、僕達が考えていたのはあくまで理想ですから。あの時はそんなに難しいなんて思っていなかったですし、実際には出来ないんじゃないですか?」
ジェイドさんも”ふむふむ”と頷いているよ。
この人は良い映像が撮れれば良いんだから、本来なら室長の突拍子もない行動は歓迎すべきなんだろうけど。
でも僕達の失敗を近くで見てたから、そんなこと出来るわけないって思ってるんだろうな。
「うーーん、そうだね。でも君達の発想は面白かったから、俺も実現したいなあって思ってたんだ。
まあ、上手くいくかどうかは分からないけど、やるだけやってみようか。」
そう言うと、室長は目を閉じて何かを考えこんでしまいました。
そして数分後、目を開いた室長は、こちらに向かってニコッと微笑むと、何やらつぶやき始めたのです。
<<マサル視点>>
恒星、つまり太陽から距離をおくと人間が住めないし、近すぎても駄目だ。
となると、同じくらいの軌道上に9つの惑星を置く必要があるが、惑星同士が近づき過ぎると衝突してしまう。
となると1つの円となる軌道に9つの惑星を配置するのは難しい。
ならば立体的に球状に惑星を配置して1つの円軌道には1つもしくは最大でも2つ程度にする必要がある。
つまり5つくらいの円軌道をお互いに交錯しないように配置して、そのそれぞれの円軌道上に少しづつ位置をずらした惑星を並べていけば、あるいは...
俺は今創ったばかりの太陽系もどきの縮小模型を魔法で生成。それを高速時間軸に乗せて、自分もその中に入る。
この時間軸内であれば約600倍の速度で時間が進む。外の世界での10時間がこの中では1分程度だ。
そしてその高速時間軸内で超高速演算モードに入ることで、縮小模型を実際に動かしながら可能となる配置を計算していこうと思ったのだ。
超高速演算モードでは、思考速度が約1000倍になるため、時間軸と合わせると外の世界での通常思考に比べて60万倍の演算能力を持つことになる。
これでスーパーコンピュータ並みの速い速度でシュミレーションできるはずだ。
「うーーーん、やっぱり難しいか。単純に円軌道を5つ並べてお互いの惑星を干渉しないようにするだけなら、計算上は何とかなるんだけど、実際には誤差がどうしても出るからね。
そんな不安定な誤差があったら、いつ衝突してしまうか分からない。
かといって円軌道の大きさを変更してしまうと、今度は人が住むには厳しくなってしまうな。
お互いの円軌道が安定して回転して、なおかつその円軌道上の惑星同士が近づき過ぎないようにするには。それと互いの星に行き来出来る必要もあるな。ってなると...... うん?数珠?そうだ数珠みたいに均等感覚に一本の線上に4つもしくは5つの星を均等感覚に繋げて2つの円軌道を作り、それを並行に恒星の左右に配置したらどうかな。
これなら1つの軌道上にある惑星同士は、繋がれた糸(これはナノチューブみたいなイメージかな)の中では比較的自由に移動できそうだ。
2つの円軌道に跨る星間の移動は大変だけど、それだって転移門を使うなりで対応できそうだな。
よし早速縮小模型で実験だ。」
また高速時間軸と超高速演算モードを併用して思考に入る。
「何とか上手くいきそうだな。だけど問題がひとつ。同一円軌道上の惑星同士がぶつからないように、ある程度距離をおく必要があるけど、そうすると恒星から遠ざかってしまい、人間が住むには寒すぎてしまう。
そうだ、恒星の熱だけで足りなければ、各惑星自身が熱を発するようにすればどうだろう。
地熱を少し強くして、大気部分に少し濃いめの魔素を混ぜると、地表からの熱で適度な温度を保てるんじゃ。
これなら、自転で恒星の裏側に回ってしまう際の急激な冷却にも耐えることが出来るかも。」
その後もしばらくシュミレーションを繰り返して、やっと一息ついて高速時間軸を抜け出したのは、丸1日後のことだった。
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