第489話【マサル異世界を創る3】

<<アルト視点>>

とうとう記念すべき1つ目の星の原型が出来ました。


「どうだい、1つ目の星が出来た感想を聞かせてくれないか。」


横でじっと見ていたジェイドさんが感想を尋ねてきました。


社内報かなにか知りませんが、何かの書物になるのですから緊張します。


「まだ、これは星の原型でしかありません。ここまでは順調だと思うのですが、気を引き締めて慎重に進めていきたいと思います。」


どうだ、模範的な回答だろう!


ジェイドさんは少し苦笑いしているようですが、そんなことは気にしません。


だって後9個も星を創る必要があるんですから。


2つ目以降は手慣れたものです。1つ目と同じような要領で創っていきます。


そして最後の核に点火した時、悲劇が起きました。


「ガチャーン!ガチャーン!ガチャーン!」


最初に創った星のいくつかがぶつかり合って、粉々に砕けたのです。


実は途中で気付いていました。


5つ目を添加した頃かな。最初の星が微振動を起こし始めたのです。


やがてそれはゆっくりとした回転運動に変わっていきました。


自転ですね。熱が取れて明確な質量を持った星が他の星に作用されて回転する現象とでも言いましょうか。


工作課時代のテキストに書いてありました。


でもこの星は小さく創ったからこの程度なら問題ないでしょう。


そう自分に言い聞かせて慢心していました。


やがて2つ、3つと冷えて質量を持った星が増えてくると、それぞれの作用が大きくなって、その場で回っていたはずの星達が少しずつ振動するように動き出したのです。


それでも間隔はそれなりにとってあったので大丈夫なはずでしたが、1つ目の星が勢い余って魔素の流れに飛び込んでいくと、魔素に勢いよく弾き飛ばされてしまい、固まったばかりの他の星に激突したのです。


激突された星も微振動しながら不安定な状態でしたから、外部から力を加えられるとあっけなくはじかれました。


そして次の星へと。そうなると連鎖は止まりません。


外部からの力で動き出した星達は、そのまま魔素の流れに弾き飛ばされて加速し、他の星へと向かっていきます。


三角州の中では10の星がまるでビリヤードの球のように四方八方にぶつかり、飛び散り、やがてその原型を留めぬくらいに砕け散って、全ての運動は止まったのでした。



「「「................」」」



その一部始終はジェイドさん達のカメラに収められてしまいました。


茫然と星達が砕け散る様を見ていた僕達は、カメラのモニタを通してその録画内容を確認しているジェイドさんの呼び掛けにより、意識を取り戻します。


「......どうするこの映像?何なら、撮り直しするかい?」


「......大丈夫です。その映像は僕達の失敗をありのままに映していると思うので、そのまま取っておいて下さい。


さあ、スイム、ヤルタ、気を取り直してもう一度やろう。」


「そうだな。アルト、君は今回の失敗をどう思う?」


「うー--ん、星同士が近すぎたのかも。いやもしかすると、この辺りは魔素が様々な方向から影響していて、振動を起こしやすいのかもしれないな。」


「その説が正しいとすれば、振動後、ある程度のバランスが取れる位置にさえ定着すれば星を創ることは可能だと言えるね。


だけど、2つ以上創っちゃうと、今度は星同士の引力により別の力が加わるから、この辺りで2つ以上の星を創るのは難しいかも。」


「スイムの仮説は正しいと思うよ。


良い機会だから、実験してみよう。ジェイドさん、ちょっと回り道になりますけど良いですよね。」


「ああ全く問題ない。君達が失敗に直面して、そこから試行錯誤を繰り返し、やがて成功する映像は視聴者を沸かせるだろうね。」


「よし、スイム、ヤルタ。まずは星をひとつ創ろう。

そうだな、ちょうど三角州の真ん中辺りかな。」


僕達は材料を揃え直し、魔素の流れの三角州の丁度真ん中辺りに核を設置。


「点火するよ!」


熱を持った星の核は、集められた塵をどんどん溶かしながら、少しづつ大きくなっていきます。


やがて当初計画していたくらいの大きさまで育ったところで冷却に入りました。


徐々に冷えながら質量を帯びていく新星。微かな振動は熱の放射によるものでしょうか。


やがて冷え切った星はその振動を徐々に緩め、やがて静止しました。


「よし!やっぱり振動は魔素の影響だったんだね。」


「じゃあ次は少し離れたところにもう一つ創ってみよう。距離は最初の計画通りで良いね。」


「「OK!」」


出来たばかりの新星から少し距離を取った位置に僕達は次の星の核を設置し、点火したのでした。


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