第385話【ワースドでの攻防5】

「通常の転移魔道具と違って時空空間を利用するため、時間を遡ったり、遠い未来へも転移できる魔道具でな、犯罪を抑止するために製造禁止となった禁制の魔道具だよ。」


「では、この魔道具を持っているのは...」


「ああ恐らくモーリス教授だけだろうな。」


「となると、俺を襲ってユウキを攫って行ったのもモーリス教授ってことか。」


「恐らくな。それでマサル君、君がおめおめと取り逃がしたとは思えないんだが。」


「そうですね。一応ユウキには追跡用の魔方陣をいくつか場所を変えて付けておきました。」


「さすがはマサル君、抜け目ないな。」


「ちょっと居場所を調べてみますね。」


ふたりがワースド星を出ていないことは分かっていた。


俺はワースド星の地図を出して、ユウキの居場所を指し示す。


「なるほど、この廃工場か。マサル君、ここは君が襲われた場所じゃなかったかな。」


「そうです。この地下深くにいることが分かりました。それもたった今。

それまではこの場所どころか、どこにもユウキの姿は見られなかったのです。」


「なるほど時空転移魔方陣を使って未来の時間に移動したわけですね。そりゃその時見つからないはずだわ。」


ユウコさんが関心頻りである。


「こんな隠れ方をされたら絶対見つけられないですね。そりゃ禁制になるはずだわ。」


「じゃあ、俺行って捕まえてきます。ユウコさんどうする?」


「もちろん行くに決まっているでしょ。」


俺とユウコさんは室長達に会釈してユウキの元へと転移した。





<<ユウキ視点>>


「くそっ!」

マサルとか言ったな。あいつのせいで魔力欠乏を起こして体の自由がきかねえ。


「まあしばらく安静にしとればすぐに良くなるさ。なに時間を進めて転移したから、すぐにここを調べたところで判るまいて。


まさか同じところにいるとは夢にも思うまい。」


「モーリス教授、油断しちゃだめだぜ。あいつは曲者だ。何をやらかすかわからねえ。」


「そうだな、さすがに灯台下暗しとはよく言ったものだ。お前に付けておいた追跡用の魔方陣が無ければ絶対見つけられなかったと思うよ。」


「「.....!」」


「お前はマサル!俺に追跡の魔方陣だと!」


「しまった、ぬかったわい。ええい、ユウキよ、また助けに行くから安心しておれ。」





<<マサル視点>>


だめだ間に合わない。咄嗟に俺は昔使ったことがある追跡用の魔道具をモーリス教授が消えゆく時空空間の中に放り込んだ。


ユウキを再度拘束している隙にモーリス教授は時空転移を試みている。


時空空間はすぐに閉じられ、モーリス教授には逃げられてしまった。


「しようがないな、ユウキだけでも連れて帰ろう。」



ユウキを連れ帰った俺達は、異世界管理局内にある独房へ彼を入れた。


魔法もかき消してしまうこの独房の中では、さすがにユウキと言えど逃げ出すことは不可能だろう。




そしてその夜、ユウキの独房に時空空間が開いた。


「ユウキ、ユウキ、迎えに来たぞ。さあこっちへ来い。逃げるぞ。」


ユウキは何も答えない。


「どうしたのじゃ。やれやれ睡眠薬でも飲まされたかの。」


ため息をつきながらモーリス教授は時空空間から手を伸ばしてユウキの腕を掴む。


そのモーリス教授の手首をユウキの手が掴みなおした。


「なに!」


「モーリス教授捕まえましたよ。あなたが来ることは分かっていたんだ。」


「お前はマサル! 時間を進めて助けに来たのにどうしてわかった?」


「あなたの足元にある魔道具ですよ。それが教えてくれたんです。なにせ追跡が完全に途絶えましたからね。


それであなたが時間を進めて移動したことを確信しました。

後はいつどこに現れるかは、大体見当がつきますよね。」



「くそっ!」


モーリス教授は掴まれた俺の手を振り切って時空空間内へ逃げようと試みる。


俺は時空空間内に向けて魔力吸収の魔法を発動。


やがて時空空間はその質量を失っていき、遂にはモーリス教授を吐き出して霧散してしまった。


牢内に残ったのは俺とモーリス教授のふたり。そして壊れてしまった時空転移の魔道具がひとつ。


「モーリス教授、おとなしく縛について下さいね。」


俺の言葉にモーリス教授の身体からは力が抜け落ち、そのまま牢内で崩れるように倒れてしまった。



それから別の施設に入れてあるユウキを別の牢に移して、俺は厳重な警備をお願いしてから牢を後にしたのだった。




ワースドでの攻防編 完

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