第376話【アキラ君の行方7】

<<ユウコ視点>>


「なるほど、分かりました。つまりこの魔方陣を発動させた者達と、一連の誘拐者は同じということですね。」


「そういうことだな。」


マサルさんとシュパード教授のやり取りを聞いていてなんとなく理解出来てきたような気がするの。


「もしかして、この映像に映っている魔方陣は、アース全体を対象に次元トンネルを展開して失敗したっていうこと?


そして魔方陣自体の機能を確認するために、この魔方陣を小さくしてナタリーさんの誘拐を実行したっていうの?」


「そうだよ。でもそれだけじゃないんだ。


もしかしたら、このアースを対象とした魔方陣の影響で弥生ちゃん達が飛ばされたのかもしれない。


あの時、弥生ちゃんが地震が発生したって言ってたよね。


もしこの魔方陣の発動失敗の影響を受けてアースに歪みが発生していたのかもしれないからね。


そう考えると、弥生ちゃん達以外にもその影響を受けた人がいるかも。」


「えーーー、もしかしてアキラ君の件も?」


「そうだね、可能性は捨てきれない。


弥生ちゃん達は魔力の薄いアースから直接引き寄せられたから、たまたま次元の狭間に落ちたと仮定すると、アキラ君の場合はこちらに向かっている最中だったから、魔力は十分だったはず。


魔力が豊富なラスク星のナタリーさんと同じような結果になったとしても不思議はないよね。」


あんまりに話しが突拍子も無く拡がったので頭が追いつかない。


周りを見ると、アスカさんは凄く驚いた顔をしてマサルさんを見つめているし、シュパード教授はニコニコしながら満足そうな表情を浮かべている。


「いやあ、マサルさん、噂に違わず見事な推察だ。召喚者であったはずの君がこちらでも有名人になったわけが理解できたよ。


恐らく、君の推測は当たっているだろうね。

実はこれまでも大規模な次元トンネルは計画されたことがあるんだ。


そして実際に幾度か実験も行われたんだが、全て失敗に終わってしまった。


マサルさんの言うように魔力が足りない、もしくはムラが多く魔方陣を均一に展開できなかったのが理由なのさ。


その実験時の様子と今回の映像の様子がよく似ていたから、わたしもそこに辿り着いたんだよ。」


シュパード教授の説明にアスカさんもわたしもようやく理解できた。


「で、では、次元トンネルの理論自体は既に出来上がっていたというのですね?」


「アスカ君、これは国家機密に相当する内容だから、一般には公開されていないんだ。

悪用されたら大変なことになるからね。君も他言は慎んでくれたまえよ。


実はこれは政府から要請があって続けられてきた研究だったんだ。


異世界管理局が造っている通称『異世界』正式名称は『生命エネルギー採取のための飼育場(LifeEnergyFarm)』から採れる生命エネルギーは我々の生命維持に不可欠なものになっているのだが、時折そのLEF自体が隕石の衝突や疫病の蔓延などで死滅してしまうことがある。


そのような事態に備え、LEFの住人全員を別のLEFに送って生命維持を図ろうと考えられたのが、この大規模次元トンネルを使った『LEF移送計画』なのだよ。


わたし達は古代遺跡から発掘された次元トンネルを復元させ実証実験の成功まではこぎつけたんだ。


ただ、先程説明した通り、魔力量の問題もあり実際のLEFを使った実験では成果を上げることが出来ず、この計画自体頓挫してしまったんだ。


当然、その時の資料自体も全て処分してしまったのだが、どうやら残っていたみたいだな。


そして、もしわたしの考えが正しければ、この魔方陣を展開した者達は成功させたのかもしれないね。」


「シュパード教授、先程失敗したとおっしゃっていたと思いますが。」


「アスカ君、たしかに次元トンネルの本来の使い方としては失敗かもしれない。


だが、『無限エネルギー思想』の奴らから見たらどうだろうか。」


「あっ、マサルさん達が言っている『弥生ちゃん達』のことですね。」


「その通りだ。もし次元トンネルとして失敗したとしても、次元の狭間に落とすことさえできれば、『無限エネルギー思想』の奴らからすれば成功なんだよ。


たとえ成功率がわずかでも、実行できるLEFはいくらでもあるからね。


でもそれだけじゃ足りないから、ナタリーさんのような小規模な誘拐も繰り返しているんじゃないかな。」


わたしは心の中にふつふつと怒りがこみあげてくるのを感じている。

いや、もう沸騰して今にも爆発しそうだ。


マサルさんを見ると怒りの感情が身体から溢れそうな勢いだ。

いつも冷静なマサルさんからは考えられない。


「シュパード教授、ありがとうございました。おかげで一連の事件が繋がりました。


それで、シュパード教授は、今回の事件の関係者を特定されていますね。」


「うむ、その通りだ。だがマサルさん、これは国家機密にも係わることであり、迂闊に動けば国家反逆罪として政府に追われることになる。


わたしが内々に政府に働きかけ必ず君が動けるようにするから、それまで我慢してくれないか。」


「承知しました。シュパード教授、宜しくお願いします。」


心の中にモヤモヤを抱えながらもわたし達3人はシュパード教授の研究室を後にしました。


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