第344話【売れっ子ラノベ作家になりたい8】
<<シロウ視点>>
信長さんとの会見からおおよそ1ヶ月経った頃、再びスタビアヌスが攻めてきたんだ。
今度も大軍を率いているが油断はなさそう。
凄い速度で国境線に侵攻すると、数の暴力でこちらの防衛網を一蹴。
王都目掛けて途中の街を蹂躙しながら進んで来る。
こちらも侵攻直後に出兵し、国境から20キロメートルほどのところで睨みあう形になった。
大将はシルベスト将軍、参謀に信長さん、そして今回はシーザー伯爵も来ている。
国軍も大半を投入した総力戦である。
当然俺も最前線で参戦している。
今日も激しいぶつかり合いがあった。
一進一退の情勢が、もう10日以上も続いているのだ。
多少の無双は出来ても、大軍の前にはなかなかラノベのようにはいかない。
前回大将首を獲られてるからか、今回は向こうも慎重で、前に出てこないんだよね。
でも少し気になることもある。
始めの勢いに比べて相手の侵攻が、かなり遅くなってるんだ。
こんな時は水面下で何かおかしなことが起こっている予感がする。
「シロウ、これからふたりで奇襲をかけて大将首を獲る。遅れをとるでないぞ。」
後ろから信長様の声がしたかと思うと強引に背中を掴まれて押し出される。
最前列にいたもんだから、そのままの勢いで敵陣に突っ込んでいく事になった。
こうなったら行くしかない。
俺は前を行く信長様を追いかけるように敵陣に突入していった。
<<ヒルガ侯爵視点>>
『スタビアヌスとの戦線が硬直している。しばらく動けない。』
伝令が戦線から日々入ってくる。どうやらスタビアヌスの侵攻を食い止めたところで膠着状態になっているようだな。
全ては想定通りだ。そろそろ行動を移すか。
儂は私兵を率いて王城に乗り込む。
兵の大半は出兵していて、残った兵もほとんど援軍として5日前に送り出した。
今王城の戦力は空っぽの状態だ。
警備兵を威圧しながら、王の私室へと向かう。
「ヒルガどうしたのじゃ。なんだこの兵達は!」
私室のドアを蹴破ると、王の上ずった声が聞こえる。
「王よ、貴様の鈍重な政策ではこの国はいづれスタビアヌスに飲み込まれてしまう。
儂が何度も進言したのに、聞く耳を持たなかった愚か者めが。
ここで天誅を受けるのだ。」
じりじりと後ろに下がる王を追い詰めていく。既に王城に残る警備兵達は我が私兵が制圧しているだろう。
儂は剣を抜き、王に迫る。
「父上!」
後ろから王子が入ってきて王をかばうように立つ。
ちょうど都合がよい。儂は王子を一閃。血をまき散らしながら王子が斃れた。
さらにもう一歩前へ進むと真っ青な顔をした王が涙を流している。
恐怖のあまり声も出ないようだ。
惰弱者めが!
剣を振って王子の血を飛ばし、そのまま王を切り殺した。
やった、これで儂がこの国を支配してやる。後はシルベストが上手くやってくれるだろう。
<<シーザー伯爵視点>>
ノブナガ殿とシロウが敵陣へと突撃した。電光石火とはこのことかと思うほどの速さで敵陣が潰走していく。
まるで海が割れるかのような勢いだ。
「シーザー伯爵様、手紙が届いております!」
その時我が屋敷より知らせが入った。
ヒルガ侯爵の謀反。そして王家の滅亡。
我が屋敷は私兵が何とか守っているようで一刻を争うようだ。
わたしは慌てて撤退を全軍に帰還を命じる。
「待て待て、シーザー伯爵。貴様はここで死ぬのだ。」
後ろからシルベスト将軍の声が聞こえた。
わたしは全てを悟った。これはヒルガ侯爵とシルベスト将軍が仕組んだ謀略だったのだ。
もうこの国はおしまいだ。
シルベスト将軍の剣がわたしに襲い掛かろうと振りかぶられた時、その動きは止まった。
そしてシルベスト将軍の腹から突き出た剣先とその剣を持つ息子ユリウスの姿が見えたのだ。
ドシッ
シルベスト将軍はそのまま横に斃れ動かない。
ユリウスは剣を引き抜くと、仲間達に合図して兵をまとめ出した。
「父上、そろそろ終わるようですね。」
しばらく息子の様子を見ていると、指示を出し終えたユリウスが戦場を見るように促す。
戦場では相変わらずノブナガ殿達の無双が見えるが、やがてその割れ目が敵陣奥深くに達すると、敵兵の潰走は奥の方が勢いを増してあっという間に前線までいなくなってしまった。
すぐ先程まで敵兵で埋まっていたその場所は今や斃れた兵が散乱しており、その奥からは夕日を背に浴びて悠々とこちらに向かって歩いてくるノブナガ殿達の姿がだ見えてきた。
「さあシーザー伯爵、王都に戻ろうぞ。そろそろ良い頃合いじゃ。」
何事もなかったようにこちらに戻って来たふたりの鬼神は王都に戻ろうと言う。
ハッとして王都の惨状を思い出す。
「父上、帰還準備完了したようです。すぐに戻りましょう。」
「我らは先に戻って始末しておる。行くぞシロウ。」
「ほんと人使いの荒い方なんですから。はい信長様。」
そういうと、疾風のようにふたりは王都に向けて走っていった。
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