第343話【売れっ子ラノベ作家になりたい7】

<<シロウ視点>>


戦勝会での軍功により、騎士として王国に正式採用されることになった。


建前上、傭兵からの昇格ということになったらしい。


この国の騎士は、準男爵相当として扱われる。


つまり俺もこの国の貴族の末端に加わったということだ。


騎士になると王城内に自室が用意される。

騎士寮ってやつだ。一応ミニキッチン、トイレ、シャワーの付いた1LDKだ。


王城に通える者や上級貴族の子息、既婚者の中には親元や自宅から通っている者もいるが、子爵位以下の独身子息は大抵この騎士寮に入っているようだな。


俺も1室もらった。

3食付きなのでこれで生活には困らなくなった。


日々の訓練もそれほど辛いモノではない。


防衛を基本と考えているらしく、運動強度としては高校の部活程度か。


まあ、俺は転移時に身体能力が強化されてるみたいだから余裕だな。



休日の午後、俺はシーザー家に呼び出された。


どうやら俺はシーザー伯爵家の派閥として扱われているみたいだ。


休日といっても特に用もないし、この世界での後ろ楯も欲しいから喜んで伯爵家に向かう。


「シロウさん、いらっしゃい。」


伯爵家ではユリウス君が迎えに出てくれていた。


彼に連れられて中に入ると、そのまま伯爵の書斎へと案内された。


「父上、シロウ殿が到着されました。」


「入ってもらえ。」


ガチャ


中には伯爵と信長さんがいた。


「ようこそシロウ君。休日なのに呼び出したりして申し訳なかったね。

実は君と軍師殿を会わせたいと思ったんだ。

迷惑だったかい?」


迷惑なんてとんでもない。願ったり叶ったりです。


「とんでもありません。

新参者のわたくしごときが、王国軍の軍師様にお目通りさせて頂けるだけで震えが止まらないくらいです。」


「ハハハ、迷惑とは言えんな。

だが、その嬉しそうな顔を見ると会わせて良かったのだろう。


なあ、ノブナガ殿。」


「いかにも。シロウ君と申したか。

先日の合戦での無双ぶり我の耳にも入っておるわ。


しかし、最初からの軍勢には入っておらなかったはず。

はてどこで合流されたのじゃ。」


信長さん、最初は少し微笑んでいたんだけど、最後の方は眼光が鋭すぎ。


チビるかと思ったよ。


「たしかに。息子のユリウスに聞いても、突然現れたとしか言わんしな。


もし儂が居るとはず。話しにくければ席を外そう。」


そう言うと、シーザー伯爵は信長さんに目配せをして、ニコニコと部屋を出ていった。


「さてシロウ。お主、転移者じゃな。

なんのためにここに来た?」


「信長様にお会いして信長様のこの世界での活躍を小説にするためです。」


「もしや、タケイナーか?」


「そうです。タケイナーさんに連れてきてもらいました。」


ジロリ…


ふたたび鋭い眼光が俺を突き刺す。


思わず後ろに下がっちまったよ。


「それでお主、我の目的を知っておるのか?」


「いえ、全く、微塵も。」


流れ続ける冷や汗をハンカチで拭きつつ、なんとか答えた。


「そうか、わかった。我の側近にしてやろう。


近々戦があるから、そこで成果を出すがよい。


我が認めたならば推挙してやる。

せいぜい頑張ることだ。」


コンコン


「話しはどうかね。」


シーザー伯爵がユリウス君を伴って入って来た。


「シロウ君、ユリウスが君と話したいことがあるらしい。


聞いてやってくれんか。」


「シロウさん、向こうでお話しを聞かせて下さい。」


ユリウス君がくねくねしてるよ。


「信長様、有り難うございました。

頑張りますので宜しくお願い致します。」


「うむ、頑張れよ。」


俺達はどうとでも取れる無難な挨拶をして、その場を別れた。




<<シーザー伯爵視点>>


ノブナガの考えは読み取れんな。だが、敵になることはないような気がする。


彼のあの卓越した発想と行動力、そして冷徹なまでの判断力。


戦乱の覇者の器だな。


間違いなく、この世界の者ではあるまい。


そしてシロウか。


ノブナガと同時期に現れた彼も恐らく異世界の者だとみた。


ノブナガ同様、どうしても味方に付けたい者達だな。


「ノブナガ殿はシロウをどう見られた?」


「うむ、得体は知れぬがそれは我とて同じこと。


が、使えるとは見た。出来れば側近として使いたいと思う。」


「わたしも同感です。この硬直しながらも不安定な世に平穏をもたらすには、多少の荒療治も必要だと考えていました。


ノブナガ殿、ご協力お願いしますぞ。」


「うむ、いかにも。」




<<シロウ視点>>


信長さんとの会見から1ヶ月、この世界にもだいぶ慣れてきた。


騎士としての訓練を続ける傍ら、ユリウス君達から、国家間の情勢や貴族間のパワーバランスなど、信長さんが言っていた近々の戦の為の予備知識も貪欲に吸収していく。


意外なことに女神様から貰った小説を書くスキルが活きているみたいで、取り留めのない様々な話しも上手くまとめて考察出来るし、わかったことからいろんな可能性を考えることも出来るようになった。


そんな日々の中で、突然スタビアヌスの侵攻が始まったのだった。




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