第326話【スタンピード4】
<<シノブ視点>>
ところでカズヤさん、つい先日戻ったばかりなのに呼び戻してごめんね。
ちょっとまずいことが起こったのよ。
あなたに魔族を倒してもらったじゃない。あれで一件落着と思ってたんだけどね。
あなたが行ってからその話を運営課内でしたわけ。そうしたらさー、たまたま運営課に苦情を持ってきたマオーさんに聞かれちゃったの。
マオーさんって知らないわよね。マオーさんってお客様相談室の主任さんでね、クレーム処理の達人なの。
それだけじゃなくてマオーさんって全世界の魔族から神と崇められている人なのよ。
それでね、マオーさんが「魔族への迫害だーー」って騒いじゃって、それをどこで聞いたんだか一部の魔族がデモ行進を始めちゃったのよ。
だってさ、魔族って排除するのが鉄板じゃない。
でね、上層部がマオーさんにデモ行進を止めるように言えって命令したもんだから、マオーさんちょっと怒ってて、全世界の魔族に、一斉にデモ行進を止めるようにってことと、なぜデモ行進が起こったのかを正直に言っちゃったのよ。
そしたら、全世界に魔族のデモ行進が広がっちゃってね。
魔族が残っている世界は大変みたいなの。
で、この世界はカズヤさんが魔族を排除してくれたからデモ行進は起こってないんだけど、困ったことに一部のゴブリンやオーク達が騒ぎ出したのよ。
まだ今のところ冒険者ギルドで何とか抑え込んでいるみたいだけど、駆除が追いついていないみたいなのよね。
スタンピードに発展しちゃうとまずいじゃない。」
「それで俺にその駆除をするようにと?」
「まあそういうことね。お願いできるかしら。」
「分かりました。その代わりっていうのもなんですが、彼女にも魔物の駆除を手伝っ手伝ってもらおうと思うんで何か強力な魔法と豊富な魔力量をあげてくれませんか。」
「わかったわ。じゃあ火と水、そして風魔法の上級で良いかしら。」
「あと収納が使える空間魔法も下さい。」
「はいはい、空間魔法って、使い方が難しいからあんまり人気が無いのだけど、最近の日本からの召還者は皆んな欲しがるのよね。」
やったね。主要属性は全て上級だし、空間魔法も手に入ったわ。ラッキー!
「さあ、カズヤさん。
そろそろアケツチ街の近くに魔物が近づいているわ。
近くまで転移させるから頼んだわね。」
女神様がニコッと笑った瞬間、わたし達は白い光に包まれた。
そして目を開けると、巨大な土煙が見えたのでした。
<<カズヤ視点>>
「しのぶさん、あれが魔物の群れ、スタンピードだよ。怖いかい?」
「怖いわ。でも大丈夫だと思う。たぶんだけと。」
そう言いながらしのぶさんは震えている。
そりゃ平和なあの世界から来ていきなりスタンピードじゃね。
俺も慣れるのに時間掛かったし。
とりあえず逃げられるようにフライだけでも教えとかなきゃ。
「しのぶさん、空を飛ぶ魔法を教えるよ。
風に包まれて浮き上がるのをイメージしてごらん。
そしてフライって、声を出すんだ。」
「……フライ!! うわあー浮いちゃったよ。
え~と、このまま後ろから圧されるのをイメージしてっと。
ふわーー?速すぎるんですけどーー!」
「ははは、初めてにしてはすごいじゃないか。
上から攻撃する分には安全だと思うから、必ず上にいてね。
それと今わかったと思うけど、君が思うよりも威力があるからね。
少しずつ力の入れ方を調整してから注意して魔法を使うんだよ。」
俺もそうだったんだけど初めて魔法を使う時って加減が分からなくって失敗しちゃうんだよね。
特にしのぶさんの場合は上級魔法だから下手したらスタンピードどころか、この辺り一面火の海になっちゃうかもな。
遠くに見えていた砂煙は次第に高く広くなり、何ともいえない咆哮や叫び声が聞こえてくる。
しばらくすると群れを率いるオークやゴブリンの姿も見えてきた。
何千匹いるのだろうか。
既にしのぶさんは地上10メートルくらいの位置に移動して何度も火魔法や風魔法を打ち出している。
魔法ってイメージが大事なんだけど、彼女はラノベ好きの厨二だからイメージは完璧みたいだ。これなら戦力として数えても大丈夫そうだな。
「しのぶさん、俺は真ん中を突っ切ってボスを倒しに行くから、後ろに避けていく魔物を広範囲魔法で焼いてくれるかい。」
「はい、了解でーーす。」
さあ、そろそろ行くかな。
俺は魔力を右手に集中させて長い魔力刀を作り出す。
全長10メートルにもなる魔力刀は俺の意思でどんな形にも変化する。
鞭のようにも槍のようにも自在だ。
俺はこの魔力刀を使って魔族を殲滅したのだ。
「よし、さあ行くぜー!」
俺は自分に気合を入れて魔物の群れに突っ込んでいった。
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