第310話【異世界に米を 7】

<<ミリア視点>>


あのバカ女を苛立ち紛れにあの世界に放り込んじゃったけど、どうしているかしらね。


あんなのでも、召喚ビンゴに当たった景品、いや失礼、大切な召喚者だから動向を課長に報告する義務があるのよね。


あれから向こうの世界では10日以上経ってるから、もう野垂れ死んでるかも。


死んだ理由を考えなきゃ。....えっ、まだ生きてる。しかも魔法使ってるじゃない。


たしかに召喚者には魔法セットが自動的に付与されてるけど、わたし達がサポートしてあげないと魔法は使えないって聞いているわ。


なんで使えてるの?


まあいいか。手間が省けたってものよ。


ちょっと声を掛けてみるか。面倒だけど仕事よ仕事。


「ヒロコさん、ヒロコさん、わたしの声が聞こえるかしら。」


「......えっ、頭に変な声が響くわ!」


「あんた、わたしの美声が変って、ちょっとどういうこと!」


「その声は、あの時のおばさん?」


「あんたねえ、おばさんは失礼でしょう!わたしは女神ミリアよ、おばさんじゃない、ミ.リ.ア!」


「そのミリアおばさんが何の用?」


「ほんと口が悪いわね。まあいいわ。あなた無事に生きていたのねえ、しかも魔法まで使えるようになって。」


「ええ、お、か、げ、さ、ま、で!」


くーーーーーっつ、腹が立つけど、我慢我慢。


あんなのでもせっかく当たった召喚者。自力で魔法が使えるようになったんだから、案外優秀なのかも。


「さてヒロコさん。あなたに与えられた使命は、この世界の主食を米にすることです。頑張って下さい。」


「嫌です。」ブチッ!!!..........


ええっ、通信が切れたんですけど!!


再接続っと ....... 繋がらねえ。もしや、あいつ結界を張ってる?


あのバカ女、完璧に拒絶しやがったぜ。


むかっ腹立つわーーーー。


ほーーーーーんと、もう知らないっと。




<<ヒロコ視点>>


ヒロコさん、ヒロコさん......


頭の中で誰かが呼んでいる。あの高飛車女神じゃねーかよー。


勝手にこんなところに置き去りにしやがって、今更何様のつもりよ。


「さてヒロコさん。あなたに与えられた使命は、この世界の主食を米にすることです。頑張って下さい。」


「嫌です。」


速攻断ってやったわ。あんな奴に譲歩する姿勢を見せたら付け込まれるだけよ。


無視するに限る。


でもあの頭に響く声はうるさいわね。


そうだバリヤー張れないかなあ。声が脳に届くところをイメージして、その前にバリヤーを... えい!


声が聞こえなくなったわ。


成功、成功。



あんたに言われなくてもわたしだって米を食べたいのよ。


でもあんたの手を借りるなんてうんざりだわ。





この世界に来て思ったこと。食べ物が美味しくないの。


味はそれなりのような気がするんだけどね、なんか触感が。むにゅーって感じが多いの。


そうそう、この前衝撃の光景を見たのよ。


ハンバーグを作っているお肉。牛肉でも豚肉でもない。ましてや鶏肉でも。


もっと柔らかくって、むにゅーって感じ。


いつも大道芸と魔法の練習ばかりで炊事仕事を全然手伝ってなかったから、手伝おうと思って炊事場に行ったのよ。


そしたらちょうどハンバーグの準備中でミンチを作っていたの。


手伝いますって近寄ったら、包丁で潰されている肉に細かな足がいっぱい。


よく見ると、触覚みたいなのもいっぱい。


ええっーーー、虫っーーーー!!!!


炊事係のベルおばさんが、虫に驚くわたしを見て驚いている。


「ヒロコちゃん、何をそんなに驚いてるの!普通のソックスクリームじゃない!」


ソックスクリームって何?この虫の名前?


「あのーこれってもしかしてハンバーグ用の肉ですか?」


「やーーねーーー。そんな当たり前のことを聞いてさあー。

ハンバーグ肉と言えばソックスクリームに決まってるじゃない。」


そんな、合い挽き肉を紹介するように言わないで、虫よ虫!


「ヒロコちゃん、この前「美味しいーー」ってたくさん食べてたじゃないのさ。」


ええ、たくさん頂きました。たしかに美味しかったですけども。ちょっと食感に違和感ありありだったけど、練りすぎなのかなあーって思ってました。


横の調理テーブルではシルクおばさんが調理中。


こちらはパンを作っているんだけど、袋から出しているのは小麦粉ではなく、蛾、大きな蛾、大切なことだからもう一度言います。


ちょっと黄色みがかった地味な色の蛾!


乾燥してて小さな臼で挽くと真っ白な粉が出てきましたよ。


卒倒しかけました。


こんなの無理って思うんだけど、他に食べるものも無いし、もう既に何回も食べてるし、お腹も壊してないし、そんな上品なデリカシーも持ち合わせていないし。


よし、あのおばさん女神のためなんかじゃなくて自分のために米を主食にしてやろうじゃねえか。


こう決意したのは、あのミリヤおばさんに声を掛けられる前日のことよ。

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