第309話【異世界に米を 6】
<<ヒロコ視点>>
硬貨をはじく以外の芸を考えているんだけど、なかなか良いのが浮かばない。
一座の皆さんにもコイン移動の手品を披露したんだけど、やっぱりムルカさんと同じ反応で、芳しくなかった。
それで今はコイン投げを練習中。
遠く離れたコップに硬貨を投げ入れるってだけの簡単な見世物なんだけど、これが難しい。
わたしって結構コントロールが良いみたいで、試してみるとそこそこコップに入る。
それだけでも一座の人達は褒めてくれるんだけど、芸としてやるんであれば100%成功しないと意味がない。
それで練習中。
手首と指のスナップを利かせてそれだけで飛ばすことで正確性を出そうとするんだけど、どうしても疲れてくると精度が極端に悪くなる。
コイン弾きの芸をしながら合間に毎日練習している。
「くそお、上手くいかないなあ。神様、このコインをあのコップに入れて!」
さすがにこの時間になると疲れが溜まってきて、今日はこれで最後にしようと決めた1投。
手元が狂って明らかにミスをしたにもかかわらず、コインは見事なカーブを描いてコインに吸い込まれた。
あれ?あの軌道は絶対に外れるはずなのに。神様にお願いしたのが良かったのかな?
もう一度神様にお願い押しながらコップに入るように願いを込めて投硬貨。
やはり不自然な軌跡を描いてコップの中へ。
次は明後日の方向へ願いを込めて投硬貨。とんでもないカーブを描いてコインはコップへと落ちた。
「今のなんだ?!」
セイムが驚きを含んだ声で走ってきた。
「今のなんだ?!すごく曲がって入ったじゃないか!まるで魔法みたいだ。
もう一度やって見せて。」
再度コップを背にしてコインを投げると、やはりコップに吸い込まれた。
ちなみに適当に投げた次のコインは見事に外れる。
「どうも、神様に祈りながら投げると、コップに入るみたい。」
わたしの言葉にセイムも絶句している。
「ふたりとも、ご飯が冷めるよーー。」
ムルカさんが呼びに来てくれた。
「セイム駄目じゃないか、ちゃんとヒロコちゃんを誘ってあげなきゃ。」
「ムルカさん、それどころじゃないんだ。これを見てくれよ。
ヒロコ、ほらもう1回やって見せて。」
「なんてことだい!ヒロコちゃん。今の魔法じゃないか。」
ムルカさんが興奮してまくしたてる。
わたし魔法なんて使えないんだけど。
「魔法だよ、魔法。今投げた時に魔力を感じたのさ。間違いないね。昔魔人が魔法を使うのを見たことあるけど、その時に感じたのと同じだよ。
ヒロコちゃん魔法が使えるんだね。こりゃたまげたよ。
えっ、自分では分からないだって!
じゃあ、知らないで使ってたのかい。そりゃまたすごいじゃないかい。」
大興奮のムルカさんが一座の皆さんを呼びに行き、それからしばらく魔法?を使ってコイン投げしていたんだけど、急に眩暈がして意識を失っちゃった。
<<セイル視点>>
ヒロコが魔法を使ったっていうことで一座の連中は大騒ぎ。
魔法を使えるのは魔人だけっていう定説があるんだけど、ヒロコはれっきとした人間みたいだし、これは大発見かもってことになった。
とりあえず、どんなことが出来るのかコイン投げをいろんな形で行って検証することに。
ヒロコが言う『神様に祈って』というのをやると上手くいくみたい。
何度も試していると、突然ヒロコが倒れた。
慌てて駆け寄る。
「恐らく魔力切れじゃないかな。魔人に聞いたことがあるよ。魔力っていうのは使えば使うほど体内に溜まる容量が増えるみたいなんだけど、最初は貯蓄量が少なくて魔力切れを頻繁に起こすらしい。
気を失っても少し安静にしていれば魔力の回復と共に意識も回復するって言ってたっけ。」
僕は大人数人と一緒にヒロコをベッドに運んで寝かせた。
ムルカさんはああ言ってたけど、意識が戻る保証なんて無いし心配じゃないか。
結局ヒロコのベッド横で眠りに落ちてしまったらしく、翌朝、気が付いたヒロコに起こされることになったんだ。
ヒロコは真面目な性格だから、今日も朝からコイン投げの練習をしている。
回数やいろんなパターンを試したりしてメモを取っているみたいだ。
器用に四角い枠をたくさん書いて、その中に線を規則正しく書いていく。
横、その下に縦、その右側に横、縦棒の左に縦、一番下に横。
1つの線が1回を表し、5回毎に1つの記号が作られていく。
その記号が20を超えた頃、ヒロコはまた意識を失った。
5時間後、意識を回復したヒロコは、またコイン投げを始めた。
今度は33、その次は50とどんどん回数が増えていく。
その度に意識を失うもんだから心配でしようがないんだけど、ムルカさん曰く、問題ないそうだ。
魔人は小さい時からこういった訓練を繰り返して魔力量を上げているらしい。
数日経って記号の数が100を超えたところで、ヒロコは別のことをやり始めた。
手から水を出すという。魔人であるまいし、人間にそんなことが出来るもんか。と思うが一生懸命なヒロコに水を差すわけにもいかず、側で見ている。
2時間後、ヒロコの目の前には大きな水の玉が出来ていた。
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