第305話【異世界に米を2】

<<ミリア視点>>


今日は召喚ビンゴの初日。今日から10日間かけて大ビンゴ大会が開催されますの。


同期の新人君達を押しのけて居並ぶ先輩達のすぐ後ろに陣取ります。


うわっ、前に座っておられるのはマリス先輩じゃないですか。


一緒の空間にいられるのが嬉しいぜ。


マリス先輩も運営課に移動してすぐの召喚ビンゴでマサルさんを引き当てたって言うし、運も実力の内ということ。


頑張らなきゃね。


1日目、2日目は当たり無し。


3日目に3人がビンゴ。今回の出品 いや違った、景品 でもない、転移者候補は10名。


後6日間、頑張らなきゃ。


10日目、本日最終日。後1人しか残っていない。


これを外したら、ミケツカミとふたりで何とかしなきゃってなるんだよね。


それじゃあ忙しくなってしまうから、何とか今日当てなきゃ。


「ビンゴーーー!」


後ろの席から狂喜の声と大きなため息が聞こえてきた。


はー、ダメだったんだ。

1年間待つ必要があるのね。

うー、わたしに割り当てられたら絶対上手くやったのに……

はーーー


喜怒哀楽、様々な感情が渦巻くビンゴ会場から、次々とビンゴ参加者が出ていく。


気落ちしていてもしようが無いし、帰ろうかな。


既にビンゴ会場には人も疎らになっていた。


外に出ようとした時、ひとりのおじさんが走り込んで来る。


バーコードの貼り付いた額にはネットリとした汗が吹き出している。


はー、見ないようにしよーっと。


「皆さん、ま、待って下さい。


後ひとり、後ひとりいるんです。


これから追加のビンゴをするので今居る人だけでも参加して下さい。」


はーはー言いながらおじさんは願ってもない事を言い出した。


「さっき、ついさっき、予定者が追加になりまして。」


これも天のお導き、残り物には福があるとばかりにミリアは最前列の真ん中に座るのだった。



10分後、ミリアは召還者を呼び出す白の部屋にいた。


『この水晶に手を置いたらいいはずよね。』


嬉しくてモデルポーズで颯爽と、ミリアが水晶に手を置くと水晶が虹色に輝き出した。


「はーー?ここどこだ?」


ミリアの前に現れたのは真っ茶色な髪の見るからに頭の悪そうな女子高生。


パンツの見えそうな短いスカートに今時ルーズソックスを穿いてガングロのいで立ちである。


しかしミリアにはこれがはずれであることは分からない。


ミリアは日本の女子高生がどんなものかを知らないからだ。


「ようこそ神の国へ。あなたは選ばれたのです。わたしの名はミリア、女神ミリアとお呼びなさい。」


これまで優等生畑一筋のミリアは良しにつけ悪しにつけ、常に周りからの注目を浴びてきた。


特に同級生からは僻みの視線を受けることも多く、それを跳ね返すために身に着けたのが女王様気質である。


常にマウントを取るその言葉尻で同級生達をことごとくねじ伏せてきた。


今回の召喚で現れた女子高生がミリアの記憶にある同級生と重なったとしても無理はない。


「...なんなの、このお.ば.さ.ん。」


残念なこの女子高生から見れば年上に見える女性は全ておばさん呼びであったのだが、ピチピチを自称するミリアは自身初めて言われた言葉に狼狽する。


「え、え、えーーーーおばさんってーーーーー!」


相手が弱みを見せると徹底的に潰しにかかるのがFラン女子高生の真骨頂。


「お.ば.さ.ん。お.ば.さ.ん。おーばーさーーーーん!!!」


容赦ないおばさん攻撃に今にも崩れ落ちそうな気力を振り絞り何とか耐えきったミリア。


「そうよ、こんな恥知らずでバカたれでもせっかく手に入った召喚者なの。

何とかしてムーンに送り込まなきゃ。」


必死に耐えるおばさん、じゃなくてミリア。


『とにかく、あなたはムーンの主食を米にしてくればいいのよ!』


必死に女子高生に目的を伝えようとするミリアだが、おばさん攻撃に夢中なバカが聞いている訳がない。


ミリアはついに切れて、無理矢理転移させてしまったのだった。


ミリアが生まれて初めて出会ったバカが消えると、白の部屋に再び静寂が訪れる。


「何なのあれ?あれも マサルさんと同じ日本人なの?


全然違うじゃない。え、もしかしてマサルさんも初めはあんなのだったのかなあ。


まさかね。でも、もしかしたら…」


誰かに聞いてみたかったが、残念ながらミリアのプライドがそれを許すことはなかったのだ。


こうしてミリアの受難は始まった。



<<召還されたFラン女子高生弘子視点>>


あれ、ここどこだ?

訳分かんないんだけど。


確か学校サボってゲームセンターで遊んでて、退屈だなぁって思ってたら、ここにいる。


真っ白な部屋?


上も下も真っ白。壁も真っ白。おまけに窓の外もシンプルな家具もぜーんぶ真っ白。


よく見ないと継ぎ目が分かんないくらい。


なんなのよーいったい。

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