第303話【とある星の再建8】

<<ケンジ視点>>


マサル先生の話しは心に染み入るようだった。


こうしなさい、あーしなさいっていう話しじゃない。


ただ、『あちらの人の話しをよく聞きながら出来ることからゆっくりと進めていきなさい。』と俺は感じ取った。


1時間ほどの講義が終了すると、会場全体から拍手が響き渡る。


拍手をする俺の目には涙がこぼれていた。




やがて拍手が鳴りやみ、会場から受講生が消えていく。


俺も消えるのを待ちながら向こうでのこれからに気持ちが沈む。


「今日は聞きに来てくれてありがとう。君がケンジ君かい?」



先程まで前から聞こえていた声が俯いている目の前から聞こえる。


「...はい。」


「ユリア様から聞いているよ。大変だったみたいだね。」


加藤先生が優しく話しかけてくれていた。


久しぶりに人と話しをする俺は少し嬉しかった。


「ひとりで異世界に来て大変だったよね。俺は社会人経験もあったからある程度は人付き合いも出来たけど、ケンジ君の歳じゃ、大人達とのやり取りも難しいのによく頑張っていたと思うよ。」


ゆっくりと話す先生の言葉が嬉しくって顔を上げて先生を見る。


優しそうな顔に笑みが浮かんでいる。なんとなくこの人に話したら今の悩みが解決しそうだと感じた。






<<マサル視点>>


ケンジ君の能力は『創造』。


思ったものを現実に作り出すチート能力だ。


彼に足りないものは、圧倒的に知識だと思う。彼の世界に必要だと思うことを聞いてみた。


水、しっかりした住居、食べ物、安全、それと少しだけの近代化。


彼から齎される言葉を聞いていると彼は思うよりもしっかりと考えていることに気付く。


彼も彼なりに同じくらいの年齢の現地人と交流を持ち、必要なことを考えていたのだ。


ならば、彼にもう少し能力を活用する知識があれば、もう少し多くの世代と話せるコミュニケーション能力があればと思う。


それを時間をかけてゆっくりと教えてあげようと思った。







<<ユリア視点>>


マサルさんのセミナーを終えて戻ってきたケンジ君の顔は上を向いていた。


諦めでもない。希望に満ちているのでもない。でも上を向いていた。


マサルさんからは時々セミナーに出席させるように要望が出ている。


マリス先輩に泣きついたら、マサルさんを紹介されたんだけど、本当に良かったかも。


後で聞いたんだけど、マサルさんって異世界管理局が呼び出した転移者の中でも最高位の実績を残し、異世界管理局の正社員どころか、運営課の即戦力としてその力を経営陣に認められているらしい。


マリス先輩の輝かしい成績もほとんどマサルさんのおかげだとかっていう声も聞いている。


でも、そんなマサルさんを上手く導いているんだからマリス先輩も凄い人なんだなあって思うんだ。


わたしもケンジ君をマサルさんみたいに育てて、マリス先輩みたいになりたいなって思う。



今後ケンジ君が頑張ってくれることを祈りつつ.......




さて今日の合コンはどことだったっけ。




とある星の再建編 完




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3話くらいにまとめようかと思っていた『とある星の再建』編、予定よりだいぶ長くなってしまいましたがやっと終了です。


マサルが異世界管理局で講師として活躍する様子をこれからも番外編として描いて行こうと思っていますので、よろしければ今後もお読み頂ければと思います。



ここまでお読みいただきありがとうございました。


好評連載中の拙著「100年生きられなきゃ異世界やり直し」とその続編である「100年生きられなきゃ異世界やり直し2」もお楽しみ頂ければ幸いです。


合わせてよろしくお願いいたします。

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